より道、まわり道

気まぐれな引用

引用

紀野恵

あはれ詩は志(し)ならずまいて死でもなくたださつくりと真昼の柘榴

岸上大作

かがまりてこんろに赤き火をおこす母とふたりの夢つくるため

石川啄木

教室の窓より遁げて ただ一人 かの城址に寝に行(ゆ)きしかな

平井弘

男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる

加藤治郎

書きなぐっても書きなぐっても定型詩 ゆうべ銀河に象あゆむゆめ

三ヶ島葭子

今にして人に甘ゆる心あり永久に救はれがたきわれかも

結城哀草果

貧しさはきはまりつひに歳ごろの娘ことごとく売られし村あり

北原白秋

君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ

島田修二

何をしてゐるのだといふこゑのする 歌を作つてゐると答ふる

近藤芳美

心弱きそのときどきのことば皆すでに未来に裁かれてあり

近藤芳美

傍観を良心として生きし日々青春と呼ぶときもなかりき

紀野恵

不逢恋逢恋逢不逢恋(あはぬこひあふこひあふてあはぬこひ)ゆめゆめわれをゆめな忘れそ

辰巳泰子

わがまへにどんぶり鉢の味噌汁をすする男を父と呼ぶなり

石川啄木

人がみな 同じ方角に向いて行く。 それを横より見てゐる心。

渡辺順三

凍るようなからつ風だ 烈風だ その中を 僕は歩いている。 ただ歩いている。

佐佐木幸綱

言葉とは断念のためにあるものを月下の水のきらら否定詞

大辻隆弘

青春はたとへば流れ解散のごときわびしさ杯をかかげて

長塚節

小夜ふけてあいろもわかず悶ゆれば明日は疲れてまた眠るらむ

佐藤通雅

菜の花を花のまま焚く火照りかなうしろに暗い少年が居る

岡本かの子

われよりも背丈のびたる男の子をばかい撫でて嘆く今日の別れに

尾崎左永子

ひとりなる時蘇る羞恥ありみじかきわれの声ほとばしる

浜田到

百粒の黒蟻をたたく雨を見ぬ暴力がまだうつくしかりし日に

滝沢亘

深更の便器に細く水流る市民の無辜をつひに信ぜず

石川啄木

新しき明日(あす)の来(きた)るを信ずといふ 自分の言葉に 嘘はなけれど——

石川啄木

ゆゑもなく海が見たくて 海に来ぬ こころ傷みてたへがたき日に

若山牧水

吾木香すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ

小池光

廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり

道浦母都子

こみあげる悲しみあれば屋上に幾度も海を確かめに行く

馬場あき子

植えざれば耕さざれば生まざれば見つくすのみの命もつなり

小島ゆかり

さざなみの寄せては過ぐるまなざしよ 外国人つて君のことだよ