2011-03-19から1日間の記事一覧

開高健「玉、砕ける」

ある朝遅く、どこかの首都で眼がさめると、栄光の頂上にもいず、大きな褐色のカブト虫にもなっていないけれど、帰国の決心がついているのを発見する。

開高健「飽満の種子」

ナショナリズムは食卓と戦場で発露されると抑制を知らなくなる。

開高健「岸辺の祭り」

盗み聞きすると人の声にはいつも孤独が感じられるものだが、このひそひそした声には何かしらえぐるようなものがあった。声こそ稚(おさな)いが成熟した男の苦さがにじんでいた。休暇は終ったのだ。鳥は沼から飛びたったのだ。

開高健「フロリダに帰る」

「おれは反対だよ」 「おれだって反対だ。けれど……」 私がそっと手をあげたのでボウヤァは苦笑して口をつぐんだ。この〝けれど〟のあとにはじまるものは、もう、あきあきするほど聞いた。すべてが〝けれど〟からはじまるのだ。反証。予測。数字。大義の標語…