2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘミングウェイ「分水嶺の下で」(高見浩 訳)

「何かいい場面を撮れたかい?」 「いくつかね。戦車を撮ったよ」 「戦車か」苦々しげに言った。「あの豚どもめ。臆病者めらが。あんたは死なないように注意しろよ。作家なんだからな、本来」 「いまは書けないがね」 「あとで書けばいい。あとでみんな書け…

ヘミングウェイ「戦いの前夜」(高見浩 訳)

人間というやつは希望と楽観論にしばしば騙されるものなのである。

ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」(高見浩 訳)

おれたちにはみな、生れたときから固有の才能が備わっているんだろう、と彼は思った。それぞれが暮らしを立てている、その在り様(よう)こそ、才能のしからしむるところなのだ。おれはこれまで、自分の活力をさまざまな形で売ってきた。人間というやつは、あ…

ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」(高見浩 訳)

おれは自分で自分の才能をぶち壊したのだ。そう、それを使わないことによって、自分と自分の信念を裏切ることによって。自分の感性の触手を鈍らせるほど酒を飲むことによって。怠惰によって。安逸によって。それから、俗物根性によって。誇りと偏見によって…

ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」(高見浩 訳)

嘘をつくというより、むしろ、語るべき真実がなくなってしまった、と言ったほうがいい。

ヘミングウェイ「キリマンジャロの雪」(高見浩 訳)

「驚いたことに、痛みが消えてしまうんだ」彼は言った。「それでわかったよ、とうとうきたか、と」

ヘミングウェイ「父と子」(高見浩 訳)

ふだんから、一日の終りに父親を想うことはまずない。一日の終りはいつも自分だけのものであって、そうでないと落ち着かないのだ。父の思い出が甦ってくるのは、秋か早春だった。

ヘミングウェイ「ギャンブラーと尼僧とラジオ」(高見浩 訳)

「馬鹿を言いなさんな。教育は人民の阿片だろう。そいつは、あんたも承知しているはずだぞ。あんたもすこしは教育を受けただろうが」

ヘミングウェイ「ギャンブラーと尼僧とラジオ」(高見浩 訳)

パンが人民の阿片なのだ。これはずっと覚えていられるだろうか? 昼間になっても、それは筋が通るだろうか? パンが、人民の阿片なのだ。

ヘミングウェイ「死者の博物誌」(高見浩 訳)

しかし、戦場の臭いは、一つの恋が終ったときのように、完全に忘れてしまう。恋の最中に起きたあれこれは覚えていても、そのときの興奮は正確に思いだせないのと同じである。

ヘミングウェイ「スイス賛歌」(高見浩 訳)

「だからさ、きみの学生時代は人生で最高の日々だったかい?」

ヘミングウェイ「今日は金曜日」(高見浩 訳)

兵士3:さあ、兵舎にもどろうぜ。今夜は最低の気分だよ、おれは。 兵士2:この町に長くいすぎたんだよ、おまえは。 兵士3:いや、それだけじゃないさ。とにかく、最低の気分なんだ。 兵士2:この町に長くいすぎたんだ、おまえは。それだけさ。

ヘミングウェイ「今日は金曜日」(高見浩 訳)

兵士2:わかってないんだな、おれの言ってることが。立派だったかどうかなんて問題じゃないんだ。問題は、いざというときになったら、さ。いよいよ釘を打ちつける段になったら、可能な限り、それを逃れようとしないやつなどいるもんか。

ヘミングウェイ「白い象のような山並み」(高見浩 訳)

「あの山並み、白い象みたい」彼女は言った。 「白い象なんて、一度も見たことないな」男はビールを飲んだ。 「ええ、ないでしょうね、あなたは」 「いや、あるかもしれないぞ」男は言った。「おれが見たことないときみが言ったからって、そのとおりとは限ら…

ヘミングウェイ「雨のなかの猫」(高見浩 訳)

「とにかく、猫がほしいわ」彼女は言った。「猫がほしい。いますぐに猫がほしい。髪をのばして楽しめないなら、せめて猫を飼ったっていいじゃない」

G・K・チェスタトン「緑の人」(中村保男 訳)

どんな悲劇でもけっして喜劇を抹殺できるものではなく、この二つは平行するものだということは仕合わせである。

G・K・チェスタトン「古書の呪い」(中村保男 訳)

「0+0+0=0ということほど人にわからせにくいことはありません。どんなに奇妙なことでも、連続して起こると、人はそれを信じるものです。マクベスが三人の魔女の三つの言葉を信じたのもそのためです。もっとも、第一の言葉はマクベス自身が知っていたこと…

G・K・チェスタトン「ブラウン神父の醜聞」(中村保男 訳)

ブラウン神父はくじけてなどいないのである。それどころか、例の寸づまりの蝙蝠傘をたずさえて、よちよち歩きながら世界を渡り歩いている、そのなかに生きている人びとの大半を愛しながら、そして世界を自分の裁き手としてではなく伴侶として受けいれながら。

G・K・チェスタトン「メルーの赤い月」(中村保男 訳)

「ここという言葉にも色々の意味がある」と神秘宗教家が答えた。「しかし、わしはここにあるとは申さぬ。見ることができると言っただけじゃ」 ※太字は出典では傍点

G・K・チェスタトン「世の中で一番重い罪」(中村保男 訳)

「ひとりきりで笑える人間には二とおりあります。大ざっぱに言って、ひとり笑いする人間は非常な善人か非常な悪人です。つまり、自分の冗談を内緒で神様に打ち明けているか、でなければ悪魔に打ち明けているのですからな。どちらにしても、そんな人には内面…

G・K・チェスタトン「ヴォードリーの失踪」(中村保男 訳)

「世の中には繊細な良心を持っている人はいくらもいます。しかし、そういう人でもたいていは、いざとなると暖か味のない処世の常識を楯に取って自分に怪我のないようにするこつを心得ています」 ※太字は出典では傍点

G・K・チェスタトン「俳優とアリバイ」(中村保男 訳)

「誰もが気がついていながら、みんな何も気がつかないふりをしているみたいです」

G・K・チェスタトン「飛び魚の歌」(中村保男 訳)

「念頭にないような女性に用心なさい。それも男以上にな」

G・K・チェスタトン「翼ある剣」(中村保男 訳)

「あなたはこれを信じているんだな」と言った。「ありとあらゆることを信じている! だれでもみんなあらゆることを信じている――あらゆることを否定しているときでさえも。否定する者は信じている。不信者もまた信じている。こういう矛盾はじつは矛盾してはい…

G・K・チェスタトン「金の十字架の呪い」(中村保男 訳)

「わたしが疑っているのは超自然的な部分じゃない。その自然の部分なのですよ。不可能なことは信じられるが、ありそうもないことは信じられぬと言った人がありますが、まさにわたしもそれですな」 「いわゆる逆説というやつですね?」と相手。 「わたしに言…

G・K・チェスタトン「犬のお告げ」(中村保男 訳)

「世間の人たちは、あれこれなんでも、実証されていない主張をたやすくうのみにしてしまう。これにかかったら、おなじみの合理主義も懐疑主義も沈没です。まったく海の波のように押しよせてくる。その名は迷信という」

G・K・チェスタトン「犬のお告げ」(中村保男 訳)

帝国主義の警察というのは、だいたいがロシアの秘密警察に案外に近い

G・K・チェスタトン「ブラウン神父の復活」(中村保男 訳)

この世には聖職者よりも聖職者らしい俗人がよくいるものだ

G・K・チェスタトン「ブラウン神父のお伽噺」(中村保男 訳)

「わたしはどうもわからないのだが、どんなものだろう、裏切りを二度かさねた者は裏切りの罪が軽くなるものかどうか」

G・K・チェスタトン「ジョン・ブルノワの珍犯罪」(中村保男 訳)

「だいたいあいまいな思いつきというものはしごくたいせつなのです。わたしはそう思う。証拠にならないようなことがわたしには決め手になるのです。性格的に不可能だということほど大きな不可能性はないと思うのです。いや、だからと言って、ブルノワ氏がよ…