2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『孫子』(町田三郎 訳)

是(こ)の故に百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。 こういうわけで、百たび戦闘して百たび勝つというのは、最高にすぐれたことではない。戦わないで敵兵を屈服させることこそ、最高にすぐれたことなのである。

ヒルティ『眠られぬ夜のために 第二部』(草間平作・大和邦太郎 訳)

かなりの期間を経たのち、以前に書いた文章を、ことに以前に努力の目標と見なしたものを、もう一度読み返してみると、自分の内的進歩に最もよく気づくことができる。日記はこれと同じ役目をはたすものではない。毎日規則的に、価値の多い思想が心に浮かぶは…

マルティン・ブーバー『我と汝』(植田重雄 訳)

恵みによって〈なんじ〉がわたしと出合う、――〈なんじ〉は求めることによって見出されない。しかし、わたしが〈なんじ〉に向かって根源語を語るのは、わたしの存在をかけた行為、本質行為である。 〈なんじ〉がわたしと出合いをとげる。しかしわたしが〈なん…

蓮實重彦『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』

動詞こそ、あらゆる「言説」にとって不可欠の条件であって、語である限りにおいて言語一般の規則に律されはするが、また一段と奥まった地帯に身をひそめ、肯定し判断する機能を帯びてもいる。すなわち、あらゆる動詞は、そのことによって「存在する」を意味…

石牟礼道子『苦海浄土』

死とはなんと、かつて生きていた彼女の、全生活の量に対して、つつましい営為であることか。

竹内敏晴『ことばが劈(ひら)かれるとき』

あなたも含めて、ことばを話すことは、歩いたり、食べたり、息をしたりするのと同じように自然なことで、ある人々にとっては、ことばを話すことが人間が長いことかかって習得する技術であるということは実感できないだろうと思います。まるで木が根を張り、…

内村鑑三『後世への最大遺物』

それならば最大遺物とは何であるか。私が考えてみますに人間が後世に遺すことのできる、ソウしてこれは誰にも遺すことのできるところの遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。これが本…

湯川秀樹『目に見えないもの』

真 実 現実は痛切である。あらゆる甘さが排斥される。現実は予想出来ぬ豹変をする。あらゆる平衡は早晩打破せられる。現実は複雑である。あらゆる早合点は禁物である。 それにもかかわらず現実はその根底において、常に簡単な法則に従って動いているのである…

西田幾多郎『善の研究』

経験は時間、空間、個人を知るが故に時間、空間、個人以上である、個人あって経験あるのではなく、経験あって個人あるのである。

アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』(西川正身 訳)

日記 (diary n.) 自分の生活の中で、自分自身に対して顔を赤らめずに物語ることのできる部分についての日々の記録。

『ラ・ロシュフコー箴言集』(二宮フサ 訳)

憐れみとは、多くの場合、他人の不幸の中にわれわれ自身の不幸を感じる気持である。それは、いつか自分が陥るかもしれない不幸に対する巧妙な備えである。われわれは他人を援けるが、それは自分が同じような目にあった時に、彼らがわれわれを援けずにいられ…

トルーマン・カポーティ『遠い声 遠い部屋』(河野一郎 訳)

「まず、ぼくが恋をしていたというところから話しはじめようか。というと、たしかにありふれた言い方だが、しかしありふれた事実とは違うんだよ、なぜなら、愛情が思いやりだということを知っている者は、ほとんどいないからね。それにまた思いやりというも…

アンダソン「手」(小島信夫・浜本武雄 訳)

とある柵のそばに立ちどまったとき、柵のいちばん上の横板をまるで大キツツキのようにたたきながら、彼はジョージ・ウィラードにむかって、きみは周囲の人間に影響されすぎる嫌いがある、はなはだよろしくない、と大声をあげた。「そんなことでは、自分をダ…

阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』

「渋谷か。おまえもそろそろ渋谷から離れてみたらどうだ?」 「まあな。しかしどこでも変わりはしないよ」

太宰治『人間失格』

いまは自分には、幸福も不幸もありません。 ただ、一さいは過ぎて行きます。 自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来た所謂「人間」の世界に於いて、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。 ただ、一さいは過ぎて行きます。 ※太字は出典では傍点

色川武大『うらおもて人生録』

そうやって眺め直してみると、俺にとって、本当に一目おかなければならない相手は、全勝に近い人じゃなくて相撲の成績でいうと、九勝六敗ぐらいの星をいつもあげている人なんだな。 これも、そのときたまたま、九勝六敗が続いているという人じゃなくて、口に…

武田泰淳『富士』

「疲労! 肉体的ならびに精神的な疲労。イヴさんが禁断の木の実を食べてしまってから、絶えることなく積み重なってきている我が人類のつかれ。それこそ究明さるべきなのです。どうして、ぼくたちだけが疲れないでいられるだろうか。いきなり徴用されて君たち…

大岡昇平『成城だより』

六十五年を読書にすごせし、わが一生、本の終焉と共に終らんとす。わが青春は「雄弁」時代の終りと接続す、有名人の講演会に行ったことなく、一人にて読書黙思す。現代は再びおしゃべり時代となる。しかし本は思想を活字に固定して、繰返し検討に堪ゆ。あま…

安部公房『死に急ぐ鯨たち』

国家にとって最大の危機は、兵器による他国からの攻撃以上に、国家儀式の大伽藍を足下から崩されることなのだ。儀式の強化はつねに最優先課題になる。それにしても口裏を合せたように、儀式願望が日々の暮しにまで浸透しはじめたのは何故(なぜ)だろう。

ヒッチコック/トリュフォー『定本 映画術』(山田宏一・蓮實重彦 訳)

H サイレント映画(ピクチャー)というのは〈映画(シネマ)〉の最も純粋な形式だと思う。サイレント映画に欠けていたものは、言うまでもなく、ただ人間のしゃべる声といろいろな音だけだった。しかし、だからといって、トーキーが映画を完成させたということに…

ジョルジュ・バタイユ『エロティシズム』(澁澤龍彦 訳)

エロティシズムについては、それが死にまで至る生の称揚だと言うことができる。

フローベール『紋切型辞典』(山田爵 訳)

ディドロ Diderot きまってそのあとにダランベールとつづく。

加藤典洋「私利私欲から世界という関係へ」(入澤美時『考える人々――この一〇人の激しさが、思想だ。』)

加藤 あともう一つ、「革命」ということの社会変化の内実でいえば、僕はそれはかなり革命達成に近似的な事態が手近なところにきているという感じをもちます。週休三日ということですね。フランスなどでは、そろそろ週休三日という要求が日程にのぼり始めてい…

エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』(日高六郎 訳)

多くのひとびとは、なにかをするときに、外的な力によって明らかに強制されないかぎり、かれらの決断は自分自身の決断であり、なにかを求めるとき、求めるものは自分であると確信している。しかしこれは、われわれが自分自身についてもっている一つの大きな…

市村弘正『「名づけ」の精神史』

名前が内蔵するこのような固有性を、もっとも顕らかに示すのが神話的世界である。そこでは固有名詞が最大限の威力を発揮している。神話的思考は世界を、固有名詞を貼りつけた事物の総和として捉えるのであって、したがって、名前を付けられた物と物との間は…

金井美恵子『岸辺のない海』

(ある意味で、という言葉は変なことばだ。あるというのが何をさすのか、いっこうにわからないのだから) ※太字は出典では傍点

ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(伊東守男 訳)

「君と一緒にいると、とてもいいよ」

スピノザ『エチカ』(畠中尚志 訳)

最大の高慢あるいは最大の自卑は自己に関する最大の無知である。 ※太字は出典では傍点

ニーチェ『善悪の彼岸』(木場深定 訳)

真理が女である、と仮定すれば――、どうであろうか。すべての哲学者は、彼らが独断家であったかぎり、女たちを理解することにかけては拙(まず)かったのではないか、という疑念はもっともなことではあるまいか。彼らはこれまで真理を手に入れる際に、いつも恐…

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』(田辺保 訳)

人は、自分の方も〈読んで〉いるが、他人からも〈読まれて〉いる。読みと読みとが衝突しあう。だれかある人に対して、自分がおまえを〈読む〉とおりにおまえもおまえ自身を〈読み〉とるようにせよと強いること(奴隷にすること)。他の人々に対して、自分が…