2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

(井原西鶴『諸艶大鑑』)

人間は欲に手足の付いたるものぞかし 人間は欲のかたまりに手足が付いているようなものである

髑髏裏眼晴(どくろりのがんせい)

道を極めた人は、どのような境地にいるのか、と言えば、それはしゃれこうべが、まなこを見開いて、見つめているのと同じようなものだ。

(No Title)

照顧脚下(しょうこきゃくか) (仏が遠くから説法のために訪れるとすれば、それはどういう意味なのか)と問われて応えられた。脚もとをよく見つめてごらん。遠くも近くも関係ないところさ。

(栂尾明恵上人遺訓)

我は後世(ごせ)たすからんと云ふ者には非ず。ただ現世に先(ま)づあるべきやうにてあらんと云ふ者なり 私は後世(ごせ)(死後の世界)で救われようとして仏道を修行しているのではない。まずこの現世に、あらゆるものが、それぞれ生きる価値が与えられて…

(『撰集抄』)

死生ともに死生に非ず 死ぬとか生れるとかいうが、諸法が空であるとみれば、すべての存在に実体がないことになり、死も生もなくなる。

(荻原井泉水)

たんぽぽたんぽぽ砂浜に春が目を開(あ)く

(中村草田男)

はまなすや今も沖には未来あり

(山口誓子)

つきぬけて天上の紺曼珠沙華

(川端茅舎)

ぜんまいののの字ばかりの寂光土(じゃっこうど)

(安原貞室『一本草』)

これはこれはとばかり花の吉野山 古来花の名所として有名な吉野山に来てみると、満山(まんざん)これ桜。あまりのすばらしさに「これはこれは」というばかりだ。

(No Title)

梨花一枝春(りかいっしのはる) ふと気づくと、梨の一枝が可憐な花を付けている。何も特別な所に行かずとも、春はどこにもあまねく行きわたっている。

(村上鬼城)

生きかはり死にかはりして打つ田かな

(清少納言『枕草子』)

ただ過ぎに過ぐるもの、帆かけたる舟、人の齢(よわい)、春夏秋冬(はるなつあきふゆ) どんどん過ぎて行くもの、帆をかけた舟、人の年齢、春夏秋冬。

(竹中郁「風」)

風がすぎていつたら しづかに耳をすますがよい 野山が笛を吹いてゐる

(堀口大學「夕ぐれの時はよい時」)

夕ぐれの時はよい時 かぎりなくやさしいひと時

(『碧厳録』)

逢花打花(おうかたか) 花に逢えば、その花の心を問うて、その花になり切ろう。

(『虚堂録』)

壺中日月長(こちゅうじつげつながし) 壺の中はまことに狭くとても入れそうにない。ならば私達の生きている空間はどうか。こんなに広々とした天地を、壺中にいるかのように感じていないか。まあ、憂世を忘れて大らかに天地とつき合ってごらん。

(清巌宗渭)

孤雲本無心(こうんもとよりむしん) 空に浮かびただよう雲は、もとより心あって流されているのではない。而(しか)して本来の自然の法則に従っているだけである。

(良寛)

花無心招蝶(はなむしんにしてちょうをまねく) 花が開くのも、それに蝶が慕い寄るのも、お互いがただ自然の摂理に従っているだけである。

(『従容録』)

落花随流水(らっかりゅうすいにしたがう) 散る花は散るという自然の法に随うだけ、水の流れに随うものもまた花の心栄えである。

吉原幸子「初恋」

ふたりきりの教室に 遠いチンドン屋 黒板によりかかって 窓をみてゐた 女の子と もうひとりの女の子 おなじ夢への さびしい共犯 ひとりはいま ちがふ夢の 窓をみてゐる ひとりは もうひとりのうしろ姿をみてゐる ほほゑみだけは ゆるせなかった おとなになる…

新藤涼子「小径」

古びた校舎のかびた匂いが セーラー服から流れていた 小雨まじりのおさない日 女学校での長い梅雨どき コックリさん占いの指の先 こっそり秘密を胸にかかえて ひたいを寄せあっていた 咲く前のつぼみどき 赤い鳥居を絵に画いて コックリさん コックリさんと …

高良留美子「ニュータウン」

洋服を着た女のひとが 歩いている。 買物籠も乳母車も歩いている。 石でかためた 地面、 これは道と呼ばれているものだ。 わたしが一緒に暮しているひとも 自分の名前をもっているらしい。 時折そんな名前が呼ばれて 黒い受話器のむこうから わたしの知らな…

金井直「あじさい」

また季節はめぐりきて うすむらさきのほほえみはよみがえる あなたは思い出 いつみても懐しい いつまでもあなたのそばにいると あなたの色が沁みこんでくるようだ かけがえのない愛の色よ あなたの繁みの奥に こころのゆりかごを静かにゆり動かす手がある あ…

茨木のり子「はじめての町」

はじめての町に入ってゆくとき わたしの心はかすかにときめく そば屋があって 寿司屋があって デニムのズボンがぶらさがり 砂ぼこりがあって 自転車がのりすてられてあって 変りばえしない町 それでもわたしは十分ときめく 見なれぬ山が迫っていて 見なれぬ…

清岡卓行「思い出してはいけない」

ぼくはどうにも 自分の 名前が思い出せないのだった。 そんなに遠い夢の中の廃墟。 そのほとりには 傷ついた動物の形をした森があり ぼくは日かげを求めて坐り きみは日なたを好んで坐った。 きみを見たときから始った ぼくの孤独に 世界は はげしく 破片ば…

安西均「新しい刃」

むすこが たどたどしい手つきで 新しいカミソリを使っている 初めておとなに変装するので 儀式かなんぞのように両肘を張って 気むずかしく脇目もふりません こめかみに 小鳥の舌ほどの血が 拭いても拭いても垂れるので ちょっと びっくりしています

三井ふたばこ「みち(紘子に)」

あなたの髪を梳きつゝ 思うこと わたしが死んでしまっても なお のびつゞけるであろう この愛しい髪 なお降りつづけるであろう 今日のような細い春雨 なお つゞくであろう 運命のうねった小径 この一瞬 わたしの櫛は 不気味な戦慄とともに みしらぬ未来の国…

竹中郁「晩夏」

果物舗(くだものや)の娘が 桃色の息をはきかけては せつせと鏡をみがいてゐる 澄んだ鏡の中からは 秋がしづかに生れてくる

木山捷平「釣」

こんなふうに不健康でゐると 今年はしきりに春が待たれる。 ああ、何年ぶりでか 来春は小川へ釣りにでかけよう。 金儲けはできぬからだである ましてえらいひとになることは―― せめて――春になると水がぬるんで 川魚たちがたのしくあそんでゐる。 ああそこへ…