2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

夏目漱石『草枕』

文明はあらゆる限りの手段をつくして、個性を発達せしめたる後、あらゆる限りの方法によって此(この)個性を踏み付け様(よう)とする。

芥川龍之介『耳目記』

僕等の性格は不思議にもたいてい頸(くび)すじの線に現れている。

『甲陽軍鑑』

八分の勝(かち)は、危(あやう)し。九分十分の勝は、味方大負(おおまけ)の下作(したつくり)也。 *「弓箭の儀、勝負の事、十分を、六分七分の勝は十分の勝なり」という武田信玄の言葉の後での、その理由を述べた部分である。大勝の後の油断が命取りになるのを…

マルキ・ド・サド「ソドム百二十日」(澁澤龍彦 訳)

自然の乱脈というものは、自然がもっとも手ひどく害われている時においてさえ、なおかつ依然として崇高でありうるものである。さらにまた、ついでに言ってしまえば、罪悪というものは、よしんば美徳のなかに発見されるような上品さというものを有っていない…

マルキ・ド・サド「ソドム百二十日」(澁澤龍彦 訳)

「しかし、わたしくらいの年齢で、わたしのような考え方をしている人間は、そんなことで躊躇逡巡するものではありません。まさかわたしが女を情婦にする気でいるなどと、お考えになっているわけではありますまいね? さよう、わたしは自分の気紛れに奉仕させ…

澁澤龍彦『黄金時代』

カプセルのイメージを思い出していただきたい。あれが子宮でなくて何であろうか。マンモス団地のイメージを思い出していただきたい。あれが共同納骨堂でなくて何であろうか。

寺田寅彦『写生紀行』

興味があるからやるというよりは、やるから興味ができる場合がどうも多いようである。

立原道造『小さな墓石の上に』

たのしかった日曜日をさがしに行こう 見つかったら もう黙って生きていよう

マルキ・ド・サド『悪徳の栄え』(澁澤龍彦 訳)

「いいこと、ジュリエット、このことをよく覚えといてちょうだい、評判なんてものは、何の役にも立たない財産なのよ。あたしたちが評判のために、どんな犠牲を払っても、けっして償われはしないのよ。名声を得ようと躍起になっている者も、評判のことなど気…

マルキ・ド・サド『悪徳の栄え』(澁澤龍彦 訳)

「羞恥心なんて、根も葉もない感情です。それはただ風俗や教育の賜物であって、いわゆる習慣というものの一形態にすぎないのですからね。裸の男や女を創り出した自然が、同時に裸になることの嫌悪や羞恥を人間に与えようはずがないじゃありませんか。もし人…

マルキ・ド・サド『悪徳の栄え』(澁澤龍彦 訳)

申すまでもないことですが、閉居している女たちにとって、快楽への傾向は、彼女らを互いに親しく結びつける唯一の動機なのです。女たちを結びつけるのは美徳ではなくて、みだら事です。女は自分のために張り切るものを好み、自分を揺すぶってくれる者を愛し…

川端康成『たんぽぽ』

「ものは考えよう」は、ものを考えまいとする、ずるいごまかしですよ。

武田泰淳『森と湖のまつり』

美しい肉体は亡びやすいが、美しい精神は永久に輝くと、お前さん方は言いたいんだろ。だがおあいにくさまに、その「精神」がやっぱり年をとるんだ。

寺田寅彦『備忘録』

もたないピアノに狂いようはない。咲かない花に散りようはない。 *いわゆる「人格者」と称せられる人の多くは、「心のピアノ」を持たず、調律師など必要としないことの理由を述べたもの。

バルガス=リョサ『緑の家』(木村榮一 訳)

「人間誰しも、一度は死ななきゃならん!」

バルガス=リョサ『緑の家』(木村榮一 訳)

「恐怖というのは愛と同じで、誰でもそれに取り付かれるんだよ、チュンガ。」 「まるで学者みたいな口をきくんだね」とラ・チュンガが言い返した。

バルガス=リョサ『緑の家』(木村榮一 訳)

「いざという時になると、男って案外だらしないもんだよ」とラ・チュンガが言った。 「男がみんなそうだってわけじゃないですよ」とボーラスが言い返した。

バルガス=リョサ『緑の家』(木村榮一 訳)

「世の中に地獄よりも恐ろしいものがあるかね?」とアキリーノが言った。「それでも人間は懲りもせず罪を犯すんだ。恐ろしいからと言って、止(や)めるもんじゃないよ、フシーア」

バルガス=リョサ『緑の家』(木村榮一 訳)

「あんたの地図をふたりで燃やしたことがあったろう、憶えているかね……」とアキリーノが尋ねた。「あんなものはくその役にも立ちゃあしない。地図を作った連中はこのアマゾン地方が片時もじっとしていない、燃える女みたいなものだってことが分かっていない…

川端康成『虹いくたび』

むやみに人を可哀想がるのは、その人自身が可哀想な証拠かもしれないからね。

芥川龍之介『貝殻』

「わたしはずいぶん嫉妬深いと見えます。たとえば宿屋に泊った時、そこの番頭や女中たちがわたしに愛想よくおじぎをするでしょう。それからまたほかの客が来ると、やはり前と同じように愛想よくおじぎをしているでしょう。わたしはあれを見ていると何だか後…

勝小吉『夢酔独言』

世の中は恩を怨(うらみ)で返すが世間人(ひと)のならいだが、おまへは是から怨を恩で返して見ろ。

ゾラ『ナナ』(川口篤・古賀照一 訳)

――それに、あたし、あんな連中、屁とも思ってやしないわ……知り過ぎるほど知ってるからよ。裸になるところを見てみるがいいわ……尊敬もなにもあったもんじゃない! 下々(しもじも)も汚なけりゃ、上(かみ)に立つ者も汚ない。汚ないことじゃみんな同じよ……だから…

谷崎潤一郎『AとBの話』

僕は救われないから苦しいと云う、君は苦しんで居るから救われると云う。

井上靖『青衣の人』

人間の苦しみなんて大したものじゃあないよ。十日も気持がやられていることはめったにあるまい。どんなに大きい打撃でも十五日さ。半月で峠を越す。

田山花袋『妻』

金がありさえすれば先ず好い。餓えさえしなければ兎に角安心だ。この「兎に角安心」が非常に勢力がある。

マンスフィールド「小さい女の子」(崎山正毅 訳)

「さあ、お前の脚をお父さんの脚にすりつけて暖めなさい。」と父親はいった。 疲れきっているのか、父親は女の子よりもさきに寝こんでしまった。そのとき、女の子には、妙な感じがわいて来た。気の毒なお父さま! こうしてみると、別にとても大きいというの…

マンスフィールド「小さい女の子」(崎山正毅 訳)

父親が、手に定規をもって、部屋にはいって来た。 「罰だ、ぶつ!」と彼はいった。 「いや、いや!」と女の子は叫んで、夜具の下にちぢこまった。 父親は夜具をはねのけた。 「そこにすわりなさい。」と父親は命令した。「手を出して! これからは、いっさい…

マンスフィールド「ロザベルの疲れ」(崎山正毅 訳)

やがて夜が明けた。不意に、明けがたの冷気が彼女のむき出しの手の上にせまって来た――灰色の光がどんよりとした部屋に流れて来た。ロザベルは身ぶるいをし、小さくあえぐような息をして、おき上った。そして、まだすっかり目のさめないままに、口のまわりに…

坂口安吾『悪妻論』

悲しみ、苦しみは人生の花だ。