2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

天武天皇

よき人のよしとよく見てよしと言ひし芳野(よしの)よく見よよき人よく見

石田未得

風ならで誰(たれ)かあぐべき柳髪

小野篁

しかりとて背かれなくに事しあればまづ嘆かれぬあな憂(う)世の中

宝井其角

夕すゞみよくぞ男に生れけり

読み人知らず

世の中は夢かうつつかうつつとも夢とも知らずありてなければ

松尾芭蕉

おもしろうてやがてかなしき鵜舟哉

西行

あはれあはれこの世はよしやさもあらばあれ来む世もかくや苦しかるべき

松尾芭蕉

よき家や雀よろこぶ背戸(せど)の秋

在原業平

つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを

井原西鶴

大晦日定めなき世のさだめ哉

ボードレール「ああ既に!」(抄) (三好達治 訳)

ただ一人、私だけは悲しかった。人々とは反対に悲しかった。神性を奪いとられる司祭のように、私はこの海から、断腸の思いなしに別れることが出来なかったのである。かくも悪魔のように魅力のある、恐ろしきまでの単純さに於てかくも無限に変化のある、この…

ボードレール「取返へしのつかないもの」(全) (堀口大學 訳)

「悔恨」の息の根は、止めてやれないものか知ら? 年月長く僕等に住みついて、息づき、動き、のたうちまはり、 蛆が死體を、松毛蟲が松を、荒すとそつくりに、 僕等を啖(くら)つて肥え太る しぶとい彼奴(かやつ)「悔恨」の息の根は、止めてやれないものか知…

ハリール・ジブラーン「苦しみについて」(全) (神谷美恵子 訳)

苦しみについてお話し下さい、とある女が言った。 彼は答えた。 あなたの苦しみはあなたの心の中の 英知をとじこめている外皮(から)を破るもの。 果物の核(たね)が割れると中身が陽を浴びるように あなたも苦しみを知らなくてはならない。 あなたの生命(いの…

ヘルダーリン「現世の快適を……」(全) (川村二郎 訳)

現世の快適を私は楽しんだ 若い日は流れ過ぎた ああ何と久しいこと! 四月 五月 七月は遠く 私はうつろだ 生きているのも味気ない!

オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』(小川亮作 訳)

ないものにも掌(て)の中の風があり、 あるものには崩壊と不足しかない。 ないかと思えば、すべてのものがあり、 あるかと見れば、すべてのものがない。

ポー「アナベル・リイ」(全) (阿部保 訳)

幾年か昔のことであつた。 海沿いの王領に アナベル・リイと言う名前で 人の知る乙女の住んでいたのは、 そしてこの乙女私と愛し合つていることの外は 餘念もなかつた。 海沿いの王領に 私も童、女も童、 しかし二人は戀にも優る戀で愛し合つていた。 私とア…

ジャン・コクトー「耳――カンヌ第五――」(全) (堀口大學 訳)

私の耳は貝の殻 海の響きをなつかしむ

ゲーテ「花婿」(全) (高橋健二 訳)

真夜中に私は眠っていたが、胸の中では、 思う人恋しの心が覚めていた、昼間に変らず。 しかも昼間は夜のように思われた―― 昼間は色々なことがあろうと、それは何だろう? あの人がいなかったのだもの! 私はまめな努力を あの人ひとりのために忍んだのだ、…

バイロン「私は世を愛さなかった」(抄) (阿部知二 訳)

私は世を愛さなかった、世もまた私を―― 所詮、敵ならばいさぎよく袂(たもと)を別とう だが私は信じたい、彼らには裏切られたが 真実(まこと)ある言葉、欺きえぬ希望があり めぐみ深く、過失(あやまち)の穽(あな)をつくらぬ美徳があると また、人の悲しみを心…

アポリネール「雨がふる」(全) (堀口大學 訳)

思い出の中でさえも 死んでしまった女たちの声のような 雨がふっている おお 雨のしずくよ 僕の一生の楽しいめぐりあわせよ 君らもふっている 馬のように暴れまわる あの雨雲が 響きの市々(まちまち)の別天地をいななきだす 後悔とあざけりが 昔の音楽を泣い…

ヴェルレーヌ「つれない世路(せろ)を」(全) (堀口大學 訳)

つれない世路を僕は歩いていました、 痛々しいほど不安な気持で。 親切なあなたの手が、道しるべになってくれました。 青ざめてほんのりと遠い地平に 夜あけの希望がほの見えていました。 あなたのまなざしが朝でした。 自分の高鳴る足音以外 旅人を鼓舞する…

岡田隆彦「史乃命」(抄)

喚びかける よびいれる 入りこむ。 しの。 吃るおれ 人間がひとりの女に こころの地平線を旋回して迫っていくとき、 ふくよかな、まとまらぬももいろの運動は 祖霊となって とうに おれの囲繞からとほくにはみでていた。

パーシー・ビッシュ・シェリー「ナポリ近く失意のうちによめる歌」(抄) (上田和夫 訳)

しかし いまは絶望さえもやさしい この風と海のように―― わたしは疲れた子供のように伏し これまで耐え なお耐えねばならない 憂きこの世を 泣いて忘れよう やがて死は眠りのようにしのびより あたたかい大気のなかで 頬が冷え 海は死にゆく頭のうえで その …

三好達治「雪」(全)

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

ハイネ「問い」(全) (片山敏彦 訳)

寂しい夜の海ぎしに 若者が一人立っている。 胸には愁いが充ちており、頭は懐疑で一杯だ。 若者は憂鬱な声で波に問う。 「人生の謎を解いてくれ。 一番古いむつかしい謎を、 エジプトの僧の頭巾を冠った頭、 ターバンを巻いた頭や、黒の縁(ふち)無し帽をかぶ…

寺山修司「断片ノート(1)」(全)

この世で一ばん遠い場所は じぶん自身の心である 生まれてから何回ドアを閉めたか 思いだすたび ひとは老いる みんなが一つずつ じぶんの海をもてばよいのだ わかれるとき どこへでも持っていけるように

アルチュール・ランボー「母音」(全) (堀口大學 訳)

Aは黒、Eは白、Iは赤、U緑、O青よ、母音らよ、 何時(いつ)の日かわれ語らばや、人知れぬ君らが生い立ちを。 Aはそも、痛ましき悪臭に舞いつどう銀蠅(ぎんばえ)の 毛羽(けば)立(だ)てる黒の胸衣(むなぎ)よ、暗き入江よ。 またEは、靄(もや)と天幕(テン…

中原中也「帰郷」(全)

柱も庭も乾いてゐる 今日は好い天気だ 縁の下では蜘蛛の巣が 心細さうに揺れてゐる 山では枯木も息を吐く あゝ今日は好い天気だ 路傍(ばた)の草影が あどけない愁(かなし)みをする これが私の故里(ふるさと)だ さやかに風も吹いてゐる 心置なく泣かれよと 年…

リルケ「予め失われている恋びとよ」(抄) (富士川英郎 訳)

予め失われている 恋びとよ いちども現われたことのないひとよ 私は知らないのだ どんな音調(しらべ)がお前に好ましいかを 未来の波がたかまっても もはや私はお前をそこに 見分けようとはしない 私の内部の すべての偉大なイマアジュ 遠い国で見知った風景…

谷川俊太郎「恋の始まり」(全)

あなたのことを絶えず考えているのに あなたの顔がどうしても思い出せない 気がついてみるとふと耳にした音楽の一節を くり返しくり返し口ずさんでいるのだ あなたに会いたいと思うのだが それは情熱というよりむしろ好奇心で 自分がいったいどうなっている…