2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『中庸』

世を遯(のが)れて知られざるも悔(うら)みず。 たとえ世間をさけて身をかくし、人々に知られないというようなことになっても、めぐりあわせをうらまず、人をとがめたりすることはない。君子が中庸をまもる態度について、孔子がのべたことば。

『荘子』

迹を絶つは易く、地を行く無きは難し。 はじめから足跡を絶って歩かないでいることはたやすいが、歩いてしかも大地をふまないでいることは難しい。俗世間をきらって人と交わらないことは難しくないが、俗世間に生きながら俗世間のあかにまみれず、しかも、自…

カミュ『異邦人』(窪田啓作 訳)

検事が腰をおろすと、かなり長い沈黙がつづいた。私は暑さと驚きとにぼんやりしていた。裁判長が少し咳をした。ごく低い声で、何かいい足すことはないか、と私に尋ねた。私は立ち上がった。私は話したいと思っていたので、多少出まかせに、あらかじめアラビ…

ジャン・ジュネ『泥棒日記』(朝吹三吉 訳)

わたしはこの日記のなかで、わたしを泥棒というものにしたほかのいくつかの動機を隠そうとは思わないが、そして、そのいちばん単純なのは食うためにということだが、しかしこのわたしの選択には、反抗心、怨嗟、憤懣、その他これに類する感情は何の役割も演…

何其芳『県城風光』

慌ただしさ、その理由にならぬ理由のために、我々は目の前の楽しみをどれほど逃し、失い、追い払ってしまったことか。

魯迅『吶喊・自序』

中流程度の暮らしから貧窮の底に落ちた人がいるとすれば、その人はその過程で、世間の人の本当の姿を見ることができるだろうと私は思う。

J.D.サリンジャー「フラニー」(野崎孝 訳)

男性というものの間抜けさ加減に対するじれったさ、それを隠すのがたまらないことがときどきある。

J.D.サリンジャー「テディ」(野崎孝 訳)

「人はみんな物には必ずどこかにおしまいがあると思ってるけど、それはそう思ってるだけで、本当は違うんだ。ピート教授に分らせようとしたのもそのことなんだけどね」彼は片方の腰を浮かせて、薄黒くなったのを丸めたなんとも見るに堪えないハンケチを取り…

『景徳伝灯録』

愁人愁人に向かって道(い)うこと莫かれ、愁人に向道すれば人を愁殺す。 心配事のある人が、同じように心配事のある人に話をしてはならない。お互いの心配をさらにつのらせるばかりである。

魯迅『再論雷峰塔的倒掉』(『墳』所収)

瓦礫の原にいることはまだ悲しむに足りない。瓦礫の原で旧例を補修することこそ悲しむべきことだ。

チェーホフ「三人姉妹」(神西清 訳)

ヴェルシーニン 二、三日まえ僕は、あるフランスの大臣が獄中で書いた日記を読みました。その大臣は、例のパナマ疑獄で有罪になった人です。それがね、じつに陶酔的な感激口調でもって、獄窓から眺めた小鳥のことを述べている。大臣をしていた頃は、気にもと…

チェーホフ「かもめ」(神西清 訳)

ソーリン (髯をしごきながら)これで一生、たたられたよ。わたしは若い時分から、飲んだくれそっくりの風采――とまあいった次第でな。ついぞ女にもてた例(ため)しがない。(腰かけながら)妹のやつ、なぜああ、おかんむりなんだろう? トレープレフ なぜかっ…

魯迅『吶喊・自序』

およそ人の主張は、賛成されれば前進を促すし、反対されれば奮闘を促すものだ。だが見知らぬ人々の中で叫んで、相手にまったく反応がなく、賛成でも反対でもない場合、はてしない荒野に身を置いたように、なすすべがなくなる。

李密

煢煢(けいけい)として孑立(げつりつ)し、形影(けいえい)相弔う。 孤独な生活を送り、ただ自分自身と己の影とが互いに慰めあっているだけである。晋の武帝が李密の名声を聞き、召したが、病床にある祖母の世話のため応じられず、「陳情表」を奉る。武帝はこの…

ドストエフスキー『悪霊』(江川卓 訳)

世の中には奇妙な友情がある。友だち二人、おたがい相手を取って食ってもあきたりぬといった仲で、生涯そんなふうに暮しながら、そのくせ別れることができない。いや、別れるどころの段ではなく、かりにそんな事態になりでもしたら、まずは、ひょんな気まぐ…

フローベール『感情教育』(生島遼一 訳)

誰もかも自分に関わりのあることだけを知りたがった。

魯迅『朝花夕拾・後記』

人は諷刺と冷嘲は紙一重だと言う。私は風流といやみも同様だと思う。

『礼記』

独学にして友無ければ、則ち孤陋にして聞くこと寡(すくな)し。 たったひとりで勉強し、ともにすすむ学友がいなければ、ひとりよがりでかたくなになってしまい、まったく見通しのきかない狭い人間になってしまうのである。

デュラス『愛人 ラマン』(清水徹 訳)

人びとにこのことを知らせねばなるまい、永遠不滅とは死すべき運命にあるということを、彼らに教えなければなるまい。永遠不滅も死にうるのだということを、それが起ってしまったということを、また起るということを。永遠不滅とはまぎれもない永遠不滅とし…

デュラス『モデラート・カンタービレ』(田中倫郎 訳)

「こんなに早く習慣が身につくものとは知らなかったわ。もうわたしは、ほとんど習慣になっちゃったわね」

魯迅『小雑感』(『而已集』所収)

一流学者と話をする時は、彼の言うことに時々わからぬところがあるふりをするのがよい。余りにわからぬと馬鹿にされるし、余りわかりすぎると嫌われる。

〔俗諺〕

頭(ず)の高い女と頭の低い男。 頭を持ちあげた夫人と頭を垂れた男が最も手に負えない。いつも頭を高くあげ、何事をも恐れない婦人と、頭を低くして何かを企んでいる男が最も扱いにくいという意。

ドストエフスキー『白痴』(木村浩 訳)

「それから、ついでに申せば私どもは、見たところまるで種類のちがう人間です……いろいろな点から見てですね。ですから、とても共通点なんて多くはなさそうに思われます。しかし、私自身としては、そういう考え方をとりたくないのです。なぜなら、私どもが共…

ドストエフスキー『罪と罰』(工藤精一郎 訳)

「小さなこと、小さなことが大切なのだ!……その小さなことが、いつもすべてをだめにしてしまうのだ……」

〔俗諺〕

縁有れば千里も来たりて相(あい)会い、縁無ければ対面すれども相逢わず。 縁があれば、いくら遠い所でも、会う機会がある。縁がなければ、道で顔と顔を向き合わせても、相手の顔を見知ることができない。

『荘子』

入りて蔵(かく)るる無く、出でて陽(あらわ)るる無し。 内面のことばかり考えてその中にこもってはならない。逆に、人間関係のことばかり考えて人目につくような行動をしてはならない。内面と交際のどちらにも片寄らず、二つのバランスをとるようにするべきで…

レイ・ブラッドベリ『火星年代記』(小笠原豊樹 訳)

「癪だな」と、ヒンクストンが言った。「隊長の許可を得てわたしはあの町に行ってみたいですよ。太陽系内の惑星には、似たような思考パターンや文明曲線が存在するのかもしれません。これが心理的思想的大発見の糸口になるかもしれないのですよ!」 「まあ、…

J.L.ボルヘス「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」(鼓直 訳)

現実にも秩序がある、という答えは無効だ。そのとおりかもしれないが、しかし現実は、われわれが究極的に認識しえない神の法則――換言すれば、非人間的な法則――にしたがっている。

カフカ『城』(前田敬作 訳)

そのとき、Kは、これで他人とのあらゆるつながりが断ち切られ、もちろん、自分はこれまでよりも自由な身になり、ふつうなら入れてもらえないこの場所で好きなだけ待っていることができる、そして、この自由は、自分が戦いとったもので、他人にはとてもできな…

『資治通鑑』

己を任ずれば則ち不識の蔽(へい)有り、聴受すれば則ち彼此(ひし)の偏有り。 自分だけを信頼して行動すると、ものが見えなくなるし、他人の言うことを聴き入れるばかりでは、あちらこちらとかたよりができてしまう。