2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

おれは断言する、人の意見が冴えず馬鹿らしく窮屈であればあるほど、われわれにとってそれは意味が重く真実なのである。ちょうど足によく合った靴よりも、窮屈な靴の方がしつこく人を悩ますのと同じことだ。アア、人の判断――きみの理性、心情、性格、きみの…

ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

思い出! 人類にかけられた呪いは、われわれのこの世における実存が固定した一定の体系なぞ、いかなるものにせよ、がまんならぬと思っていること、しかも、固定どころか、万物は流転し、たえまなく動き、形をかえ、そして、一人一人がその人間をほかの一人一…

ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

おれは真面目さというものに対しあまりにも真面目な態度をとりすぎたうえ、大人たちの大人らしさをあまりにもまた評価しすぎていたのかもしれない。

ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

自然という時計の針は、断固としていて無慈悲だった。最後の歯、親知らずがはえきったとき、おれは考えなければならなかった。いや、考えるまでもなく分かっていた――発育は終わったのだ。避けようにも避けられぬ殺戮のときが来たのだ。使命を終えたさなぎの…

ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

……まったく、おれは人生の道のなかばに、暗い森のただなかへと踏み入ったのだ。その森は、また悪いことに、緑だった。 ※太字は出典では傍点

ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

火曜日、夜はもうまったくのところ終わってしまったのに、すっかり明けきるにはまだ間(ま)があるという、例のまるで人けのないぼんやりした時刻に、目をさました。不意に目がさめると、すぐに停車場までタクシーをとばそうと考えた。なにしろ、旅に出るのだ…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

――うん、おれはねどんな女も信用せんよ。 ――どんな女も? ――どんな女もだ。女はそむく、真面目にそむくんだ、わかるだろおれの言うこと。

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

ジュゼッペが言うのに、自由人は死を考えない、知恵は死の省察にはなく、かえって生の省察にあるのだそうな。ジュゼッペは他人が考えてくれたことをくり返しているのだ。人間は互いに真理を取ったり取られたりできるものと思いこんで、この盗み行為から……自…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

彼は聞こうとせず背を向けているがそれできっといいのだ。人間は背を向けて生きることも習ったのだ。生きることを習ったのだ。

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

けれども夢を実現させるとは、現実によってその夢を打ち砕くことにすぎない。そして終りなぞないということ、たぶんすべてがあれほどにむなしいばかげた仕方で終る場所以外には、行き着いて憩う終りとも目的ともなるようなどんな場所もないということを、発…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

口を糊するためといって死刑囚になるわけにはいかない。奇蹟中の奇蹟ともいうべき偶然で物に存在理由があるとしても――一見したところそんなことは自明とは見えぬ、自明どころではない――また人に存在理由があるとしても、とにかく、毎日毎日を死に至るまでの…

クロード・シモン『ペテン師』(松崎芳隆 訳)

彼女はうつ伏せに寝て顔を向ける。 ――ね、私やさしいでしょ。やさしいと言って。 ――とても。そんなふうにしていると、きみはとてもやさしい女の子。おれの好きなすてきな子だ。 ――あなたの望みどおりになんでもするわ。 ――おれの望みどおりになんでもするわ…

パヴェーゼ『美しい夏』(河島英昭 訳)

暗闇のなかでふたりは服を着た。そしてその暗闇のなかで、不意に、あのモデルは誰なのか、とジーニアはたずねた。 「ぼくが帰ってきたことを聞きつけて、やってきた、かわいそうな女だよ」 「きれいなひとなの?」とジーニアが言った。 「見なかったのかい?…

パヴェーゼ『美しい夏』(河島英昭 訳)

「きみは、夏じゃないんだ。絵を画くのがどういうことかきみは知らないんだ。ぼくはきみを愛さなければいけないのだろう、賢くなるためには。しかし、そうすればぼくは、時を失うだろう。きみは知らなければいけないよ、男は自分を理解してくれる友だちをも…

パヴェーゼ『美しい夏』(河島英昭 訳)

《人生ってこんなものね――と彼女は思った――あたしが彼のことをよく知らないから、グィードはあたしの腕をとったり、街角で立ち止まったり、あたしが女の子だなんて言ってみたり、お互に見つめあったりするんだわ。彼にとって、あたしはジネッタなんだわ。愛…

パヴェーゼ『美しい夏』(河島英昭 訳)

あのころはいつもお祭りだった。家を出て通りを横切れば、もう夢中になれたし、何もかも美しくて、とくに夜にはそうだったから、死ぬほど疲れて帰ってきてもまだ何か起こらないかしら、火事にでもならないかしら、家に赤ん坊でも生まれないかしらと願ってい…

セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

すごく遅れて、とうとう姪が帰って来た。やれやれ、なんて腰だ! 彼女の尻ときたら本物のスキャンダルだ……スカートにいっぱい襞がある…… だからよけいはっきりそれが目立つ。割れ目のあるアコーデオンだ。なにもかもくっきり見える。失業者ってやつはやけく…

セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

もう病人はうんざりだ…… 午後以来、三十人もうるさい連中を診てやっている…… もうできない…… 勝手に咳をしろ! 唾を吐け! 骨が抜けろ! おたがいにオカマでも掘れ! 尻に三万種類のガスがつまって飛んでいけ! 糞食らえだ!……

セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

手紙の中の悲しいことは、もう二十年近く、みんな彼女のところで停っていた。それがごく最近の死の臭(にお)い、途方もなく酸っぱい味にまじってまだそこにある…… 悲しみが孵化したのだ…… そこにある…… さまよっている…… そいつはわれわれを知り、われわれは…

セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

わたしは嵐がもっともっと荒れまくり、家々の屋根が崩れ、春がもう帰ってこず、この家が消え失せればいいと思う。 ベランジュ婆さんは知っていた、悲しいことはみんな手紙でやって来るのを。わたしはもう誰に手紙を書いていいかわからない。連中はみんな遠く…

セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

こうしてわれわれはまたも孤独だ。すべてはこんなにも遅く、重く、もの悲しい…… もうじきわたしは年をとるだろう。そしてついにはこれも終りになるだろう。わたしの部屋にはおおぜいの連中がやって来た。やつらはいろいろなことを言った。たいしたことじゃな…

スエトニウス『ローマ皇帝伝』

ゆっくり急げ.

クィンティリアヌス『弁論術教程』

野心はそれ自身では悪徳だろうが,しばしばそこからいろいろな徳が生まれる.

オウィディウス『アルス・アマトリア』

黙っていても,顔が声と言葉をもっていることがよくある.

マルティアリス『エピグラム』

すべての日がそれぞれの贈り物をもっている.

タキトゥス『年代記』

ゲルマニクスが死んでいちばん嬉しい者が,誰よりも大げさに愁嘆して見せるのだ.

タキトゥス『同時代史』

もし皇帝になっていなかったら,世評は一致して彼こそ皇帝の器であると認めていたであろうに.

大プリニウス『博物誌』

眉間は,人が喜んでいるか,うきうきしているか,厳しい気持ちをいだいているか,悲しんでいるか,などの指標である.

オウィディウス『悲しみの歌』

もし一年を通して太陽の日と雲の日とを数えてみれば, 晴れた日の方が多かったということが分かるだろう.

テレンティウス『アンドロスの女』

ははあ,これであの涙なんだな. (道楽息子がアンドロスから来た女に入れあげていたが,その女が死んだ.道楽息子は涙ながらにいそいそと,葬儀万端に精を出していたが,実は死んだ女の妹がなかなかの美形で,彼はその妹を目当てに,一所懸命泣いていたのだ…