2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

トム・ガン(中川敏 訳)

「肉を知る」(抄) ぼくが吃(ども)るのをほっておいてくれ 去ってほしい、 きみに情があるなら よそへ行って泣いてくれ―― ぼくたちが同じ感情を分ち合うことができるとは思わない。 きみの賢しらな抗議は退屈なだけだ そして今でもぼくは身構える だからも…

ウィリアム・フォークナー『死の床に横たわりて』(佐伯彰一 訳)

今となっては、父の口癖だった、「生きてるのは、つまりは、長いあいだじっと死んでいれるようにと準備する為じゃ」という言葉しか思い出せない。

ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー「消え失せたひとびと」(抄)(生野幸吉 訳)

不在のものを抜きにして、何ひとつ在りはせぬ。 無常のものを抜きにして、なにひとつ安全なものはない。 忘れ去られた者らを抜きに、なにひとつ確かなものはなか ろう 消え失せた者らは正しい。 ぼくらもそんなふうにしてひびき消えるのだ。

「大江健三郎に聞く」(立花隆+東京大学教養学部立花隆ゼミ『二十歳のころ I 1937-1958』)

O:僕の性格や感受性に、サルトルって人は全く合わないんです。

カルロス・ドルモン・ジ・アンドラージ「食卓」(抄)(ナヲエ・タケイ・ダ・シルバ 訳)

・それはあなたをも殺すこと――人間が死ぬのは 一度と限らず、また、完全に死んでしまうこともないので す。 常にいくつもの命が残され、 別々の身体の中に 分れて流れる同じ血の 仲たがいのために 使いはたされるのです 常にいくつもの死が残され、 長い時を…

藤枝静雄『田紳有楽』

私は後ろの押入れの棚から骨笛をとり出し、鉦(かね)と太鼓を膝前に据えて構えた。そして精いっぱいの思いをこめて「プーッ」と一声を挙げ、撥(ばち)をとって「デン」と打った。「プープププー、デンデデンデン」と次第に調子をととのえ緩急をはかって演奏を…

マルスラン・プレネ(澁澤孝輔 訳)

「(ひとつの自然は………)」(抄) むこうだ むこうには眼を閉じねばならぬ そして優しく色褪せた言葉のこの納骨所で 華々しく 死ぬ者がありその者はいま死んでゆくのですべてを知って おくこと

山田風太郎『あと千回の晩飯』

ともあれ、わたしの死のアフォリズムに、 「最愛の人が死んだ夜にも、人間は晩飯を食う」 と、いうのがある。

テッド・ヒューズ(田村英之助 訳)

「ゴグ」(抄) 俺の過失は何だったか。それはもう俺の頭蓋が閉じこめた。 俺の大いなる骨は、俺の中に集め合され、 地の上を音高く進み、自分の歌に興奮する。 俺は岩や石をみない、岩や石がみているものに俺は怯える。 「十一月」(抄) 雨は一面に降り注…

柳田国男『山の人生』

山に住む者の無口になり、一見無愛想(ぶあいそう)になってしまうことは、多くの人が知っている。必ずしも世を憤って去った者でなくとも、木曾の山奥で岩魚(いわな)を釣っている親爺でも、たまたま里の人に出くわしても何の好奇心もなく見向きもせずに路(みち…

マリオ・ルーツィ「変身の暗き体内で」(抄)(河島英昭 訳)

・《人生は思索に応じてぼくらを思索の源から引き出し、 人生は人生に応じて ぼくらを過誤と苦難に導き人生は不可能だ》 夢の壁がぼくをまた送り返す 目覚めて夢見た夢。《不可能だ 生きることは、考えることも》 と書かれている ・――自分を見出したければ自…

蓮實重彦+武満徹『シネマの快楽』

蓮實 映画はね、異なるものを同時に肯定することだと思うんです。小津か溝口かという選択ではなくて小津も溝口もという具合に。よくキートン派とチャップリン派という区別をしますね。それをやりはじめると、ぼくはついチャップリンの悪口を言っちゃうことに…

ビセンテ・ウィドブロ「赤道儀」(抄)(内田吉彦 訳)

人生は何度やり直したのだろうか ひとつの星に起きた一切のことをだれが語るのだろうか

キルケゴール『不安の概念』(斎藤信治 訳)

言葉というものは結局いつでも救済の力をそのうちに含んでいるものである。というのは、どのような絶望も、悪のどのような恐怖も、それがひとつの言葉にまとめられた場合には、沈黙がそうであるほどには戦慄すべきものではないからである。

アンドレ・デュ・ブーシェ(小島俊明 訳)

「白いモーター」(抄) わが物語は空中で急にまがる黒い枝であるだろう。 「途上で」(抄) 遠景を独占する空気が、われわれを生きてるままに放置する。

『孟子』(小林勝人 訳注)

孟子曰く、自ら暴(そこな)う者は、与(とも)に言うあるべからざるなり。自ら棄(す)つる者は、与(とも)に為(な)すあるべからざるなり。言、礼義を非(そし)る、之(これ)を自ら暴(そこな)うと謂(い)い、吾が身仁に居り義に由(よ)ること能わずとす、之を自ら棄つ…

「おじさんのかさ」(佐野洋子 作・絵)

あめが ふったら ポンポロロン あめが ふったら ピッチャンチャン

タデウシ・ルジェヴィッチ「数ある仕事のなかに」(全)(工藤幸雄 訳)

数ある 仕事の たいへん 切迫するなかに ぼくは 忘れていた これも すべきことだと それは 死んで行くこと 軽率にも ぼくは 粗末にしてきた この義務を あるいは 果たしても うわべだけ だった あすから すべてが 変わる ぼくは 死ぬことを 始めよう 懸命に …

カフカ『アメリカ』(中井正文 訳)

目の前の写真を一そう念入りにのぞきこんで、さまざまな方向から父親の視線をかっちり受けとめようと努力してみた。彼は蠟燭をいろいろな位置に立てて見かたを変えてみたのだが、結局、父親は生き生きとなってはくれなかった。

「戦火のなかの子どもたち」(岩崎ちひろ・作)

あたしたちの一生は ずーっと せんそうのなかだけだった。

ボリス・パステルナーク「(すべてにおいて私は至りつきたい……)」(抄)(工藤正広 訳)

すべてにおいて私は至りつきたい その核心そのものまで。 仕事において、途の探求において、 心の擾(みだ)れにおいて。 流れ去った日々の本質まで、 それら原因まで、 基底まで、根まで、 芯まで。 絶えずもろもろの運命の、 出来事の糸を摑まえながら、 生…

ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』(黒丸尚 訳)

「で、具合はどうかね。世の中はどう変わった。もう世界を支配しているのかい。神か……」 「世の中は変わってない。世の中は世の中」 「でも、何やってんだい。そこにいるだけかい」 ※太字は出典では傍点

「ひとりぼっち」(レイフ・クリスチャンソン――文、にもんじまさあき――訳、ほりかわりまこ――絵)

もし だれひとり あなたのことを気にかけてくれなかったら あなたは 本当にひとりぼっち でも ひとりぼっちは あなただけじゃない ひとりぼっちは よその国からやってきた人 年をとった人 病気の人 ともだちのいない人 こわがりの人 あなたの知っている でも…

ジュゼッペ・ウンガレッティ「ディドーネの心境を叙する合唱」(抄)(土岐恒二 訳)

・ だが可能だろうか、言葉なき葛藤が 鎮められ 夜が世紀から消えさることが? ・ わたしは知らない いずれがよりよく生きたのか 陶酔して 絶えまなく囁くせせらぎと かよわく黙して立ちつくしたこのわたしとの。 ・ わたしは魂のなかに 苦悩だけを秘めている

トマス・ハーディ『テス』(井上宗次・石田英二 訳)

人生には均衡と補償があるものだ。

「エミリー」(マイケル・ビダード ぶん/バーバラ・クーニー え/掛川恭子(やすこ) やく)

・「詩ってなあに?」わたしがききました。 パパは、しおれたはなびらをてのひらにのせました。 「ママがピアノをひいているのをきいていてごらん。おなじ曲を、なんどもなんども練習しているうちに、あるとき、ふしぎなことがおこって、その曲がいきものの…

ヨシフ・ブロツキー

「ジョン・ダンにささげる悲歌」(抄)(川村二郎 訳) ・だが聞くがよい! きこえてはこないか かしこ 冷たい 闇の中で だれかが泣いているのが 不安げにささやいているのが ・どの水車にこの水をそそごうとも この世に生みだされるのは いつも同じパン わ…

ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』(高本研一 訳)

今日ぼくは、すべてのものがぼくたちを見ていて、なにものも調べられないままではいない、そして壁紙ですら人間よりも良い記憶力の持ち主であるということを知っている。すべてを見ているのは愛する神などではない! 台所の椅子、アイロン、半分たまった灰皿…

「あらしのよるに」(木村裕一◎作/あべ弘士◎絵)

「じゃ、ねんのため、おいらが『あらしの よるに ともだちに なった ものです。』って いいやすよ。」 「ハハハ、『あらしの よるに』だけで わかりますよ。」 「じゃあ、おいらたちの あいことばは、『あらしの よるに』ってことっすね。」 「じゃあ、きを …

パブロ・ネルーダ

「歩きまわる」(抄)(桑名一博 訳) ・俺は人間であることにうんざりしている ・俺はいつまでも暗闇の根でありたくない ・こんな不運つづきはもう御免だ 俺はもう御免だ 根であり墓であり続けるのは 寒さに震え 悲嘆にさいなまれながら ぽつねんとした穴倉…