2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

高橋新吉「るす」

留守と言へ ここには誰も居らぬと言へ 五億年経つたら帰つて来る

高橋新吉「皿」

皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿 倦怠 額に蚯蚓が這ふ情熱 白米色のエプロンで 皿を拭くな 鼻の巣の黒い女 其処にも諧謔が燻すぶつてゐる 人生を水に溶かせ 冷めたシチユーの鍋に 退屈が浮く 皿を割れ 皿を割れば 倦怠の響が出る。

八木重吉「草に すわる」

わたしの まちがひだつた わたしのまちがひだつた こうして 草にすわれば それがわかる

笹沢美明「捨て扇」

捨てられるために使われ 使われたために捨てられた 秋の扇 目的もなく風は木を揺すり、意味もなく窓硝子を叩いて行く。

村山槐多「走る走る走る」

走る走る走る 黄金の小僧ただ一人 入日の中を走る、走る走る ぴかぴかとくらくらと 入日の中へとぶ様に走る走る 走れ小僧 金の小僧 走る走る走る 走れ金の小僧。

百田宗治「子守唄 母に」

私を眠らせて下さつたあなたの唄で 私は私の子供を寝かせます。 この児がまた自分の子供を眠らせる時に うたふ唄をばかうして私は教へます。

堀口大学「エロスの詩法」

お手(てて)で口説くのよ

堀口大学「秋のピエロ」

泣笑ひしてわがピエロ 秋ぢや!秋ぢや!と歌ふなり。 O(オー)の形の口をして 秋ぢや!秋ぢや!と歌ふなり。 月の様(やう)なる白粉(おしろい)の 顔が涙を流すなり。 身すぎ世すぎの是非もなく おどけたけれどもわがピエロ、 秋はしみじみ身に滲みて 真…

芥川龍之介「相聞 二」

風にまひたるすげ笠の なにかは路に落ちざらん。 わが名はいかで惜しむべき。 惜しむは君が名のみとよ。

日夏耿之介「かかるとき我生く」

気澄み空晴れ鳥も来鳴けり 青き馬流れに憩ひたち 繊(ほそ)き草の葉など日光にあえぐ 『今』の時圭(とけい)はあらく吐息す すべてかゝる祈りに人は間々生く

大手拓次「夜の時」

ちろ そろ ちろそろ そろ そろ そろ そる そる そる ちろちろちろ され され されされされされされ びるびるびるびる びる

大手拓次「母韻の秋」

ながれるものはさり、 ひびくものはうつり、 ささやきとねむりとの大きな花たばのほとりに しろ毛のうさぎのやうにおどおどとうづくまり、 宝石のやうにきらめく眼をみはつて わたしはかぎりなく大空のとびらをたたく。

大手拓次「美の遊行者」

そのむかし、わたしの心にさわいだ野獣の嵐が、 初夏の日にひややかによみがへつてきた。 すべての空想のあたらしい核(たね)をもとめようとして 南洋のながい髪をたれた女鳥(をんなどり)のやうに、 いたましいほどに狂ひみだれたそのときの一途の心が、 …

石川啄木「手紙」

「もう十年も逢はないが、 君はやつぱり昔どほり 元気が盛んだらう。」と その手紙に書いてあつた。――

石川啄木「ココアのひと匙」

われは知る、テロリストの かなしき心を―― 言葉とおこなひとを分ちがたき ただひとつの心を、 奪はれたる言葉のかはりに おこなひをもて語らむとする心を、 われとわがからだを敵に擲(な)げつくる心を―― しかして、そは真面目にして熱心なる人の常に有(も…

土岐善麿「街に出でよ」

街にいでよ、街に出でよ、街には事実あり、 おどろくべき、たしかなる事実、目の前にあり、 書斎のなかに眼を瞑(つぶ)りて、さかしげに空想するよりも、まづ、 街にいでよ、街に出でよ、街には事実あり。

木下杢太郎「緑金暮春調」

ゆるやかに、薄暮(くれがた)のほの白(じろ)き大水盤(だいすゐばん)に さららめく、きららめく、暮春(ゆくはる)の鬱憂(めらんこりあ)よ。 その律(しらべ)や濁り、緑金(りょくきん)の水沫(しぶき)かをれば、 今日もまたいと重くうち湿り、空気…

北原白秋「薔薇二曲」

一 薔薇ノ木二 薔薇ノ花サク。 ナニゴトノ不思議ナケレド。 二 薔薇ノ花。 ナニゴトノ不思議ナケレド。 照リ極マレバ木ヨリコボルル。 光リコボルル。

北原白秋「銀座の雨」

雨……雨……雨…… 雨は銀座に新らしく しみじみとふる、さくさくと、 かたい林檎の香のごとく、 舗石(しきいし)の上、雪の上。

山村暮鳥「雲」

おうい雲よ ゆうゆうと 馬鹿にのんきさうぢやないか どこまでゆくんだ ずつと磐城石(いはきたひら)の方までゆくんか

野口雨情「捨てた葱」

葱を捨てたりや しをれて枯れた 捨てりや葱でも しをれて枯れる お天道(てんたう)さま見て 俺(おら)泣いた

伊良子清白「漂白」

蓆戸(むしろど)に 秋風吹いて 河添(かはぞひ)の旅籠屋さびし 哀れなる旅の男は 夕暮の空を眺めて いと低く歌ひはじめぬ

蒲原有明「牡蠣の殻」

牡蠣の殻なる牡蠣の身の かくもはてなき海にして 独りあやふく限ある そのおもひこそ悲しけれ

野口米次郎「綱渡り」

彼は他人を考へる時間が無い、 自分自身であることが、エゴイストの芸術だ…… 何といふ熱中を彼は仕事にもつであらう、 熱心が極まる時、彼は沈黙に入り、 言葉を失ふ時、彼は自分自身の人格を作る。 踏外さない彼に、何といふ行為の節約があるであらう。 彼…

北村透谷「蝶のゆくへ」

舞うてゆくへを問ひたまふ、 心のほどぞうれしけれ、 秋の野面をそこはかと、 尋ねて迷ふ蝶が身を。 行くもかへるも同じ関、 越え来し方に越えて行く。 花の野山に舞ひし身は、 花なき野辺も元の宿。 前もなければ後もまた、 「運命(かみ)」の外には「我」も…

一遍の言葉『一遍上人語録』

万法は無より生じ、煩悩は我(が)より生ず。 〈解釈〉この宇宙に存在するすべての真理は無我より生じ、煩悩は我身(自我執着)をもととして起こったものである。

薬山惟儼の言葉『祖堂集』

雲は晴天に在り、水は瓶(びょう)に在り。 〈解釈〉青空に雲あり、水瓶に水あり。