2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

屈原「離騒」(『楚辭』より)(抄) (藤野岩友)

世溷濁して分かれず。 好んで美を蔽ひて嫉妬す。 よこんだくしてわかれず。 このんでびをおほいてしっとす。 世溷濁而不分兮 好蔽美而嫉妬 おもえば、世は乱れ濁って善悪の区別もつかず、好んで人の美点をおおい隠して嫉妬している有様だ。 世溷濁して賢を嫉…

陶潛「酒を飮む(さけをのむ;飮酒)」(抄) (星川清孝)

余間居して歡寡く、兼ねて此夜已に長し。偶〃名酒有り、夕として飮まざる無し。影を顧みて獨り盡し、忽焉として復酔ふ。既に酔ふの後には、輒ち數句を題して自ら娯しむ。紙墨遂に多く、辭に詮次無し。聊か故人に命じてこれを書せしめて、以て笑を爲すのみ。 …

白樂天「重ねて渭上の舊居に到る(かさねてゐじゃうのきうきょにいたる;重到渭上舊居)」(抄) (田中克己)

浮生は過客に同じく、 前後たがひに來去す。 白日 珠を弄するがごとく、 出沒 光とどまらず。 人物 日に改變す、 目を擧げて所遇を悲む。 迴念してわが身を念へば、 いづくんぞ衰暮せざるを得ん。 ふせいはくゎかくにおなじく、 ぜんごたがひにらいきょす。 …

杜甫「古柏行(こはくかう)」(抄) (目加田誠)

志士幽人 怨嗟する莫れ 古來 材大なれば用を爲し難し ししいうじん ゑんさするなかれ こらい ざいだいなればようをなしがたし 志士幽人莫怨嗟 古來材大難爲用 遂にこの世に時を得ぬ志士、幽人たちよ、徒(いたず)らになげき怨むことはない。古来、材の大なる…

李白「酒を將げ進む(さけをささげすすむ;將進酒)」(抄) (青木正兒)

君見ずや高堂の明鏡 白髮を悲しむ 朝には青絲の如く暮には雪と成る。 人生 意を得て須らく歡を盡すべし 金樽をして空しく月に對せしむる莫れ。 きみみずやかうだうのめいきゃう はくはつをかなしむ あしたにはせいしのごとくくれにはゆきとなる。 じんせい …

「蓼莪(りくが)」(「『詩經』 小雅 谷風之什(こくふうのじふ)」より)(抄) (高田眞治)

蓼蓼たるは莪 莪に匪ず伊れ蒿 哀哀たる父母 我を生みて劬勞す りくりくたるはが がにあらずこれかう あいあいたるふぼ われをうみてくらうす 蓼蓼者莪 匪莪伊蒿 哀哀父母 生我劬勞 生い茂る莪(わかな)。柔らかくて味の良い美菜の莪(わかな)を作ったのに、い…

屈原「九歌 少司命(せうしめい)」(『楚辭』より)(抄) (藤野岩友)

悲しみは生別離よりも悲しきは莫く、 樂しみは新相知よりも樂しきは莫し。 かなしみはせいべつりよりもかなしきはなく、 たのしみはしんさうちよりもたのしきはなし。 悲莫悲兮生別離 樂莫樂兮新相知 悲しみは生き別れより悲しいものはなく、楽しみは新しく…

陶潛「貧士を詠ず(ひんしをえいず;詠貧士)」(抄) (星川清孝)

知音苟も存らずんば、已んぬるかな、何の悲しむ所ぞ。 ちいんいやしくもあらずんば、やんぬるかな、なんのかなしむところぞ。 知音苟不存 已矣何所悲 ほんとうに自分を知って許し合える人が、かりにもいないのだとすれば、それではどうにも仕方がない。何を…

白樂天「婚を議す(こんをぎす;議婚)」(抄) (田中克己)

天下 正聲なし、 耳を悦しむればすなはち娯となす。 人間 正色なし、 目を悦しむればすなはち姝となす。 顔色あひ遠きにあらず、 貧富すなはち殊なるあり。 貧しきは時の棄つるところとなり、 富めるは時の趨くところとなる。 てんか せいせいなし、 みみを…

杜甫「江畔獨り歩して花を尋ぬ七絶句(かうはんひとりほしてはなをたづぬしちぜっく;江畔獨歩尋花七絶句)」(抄) (目加田誠)

是れ花を愛するならずんば即ち死せんと欲す 只だ恐る花盡きて老の相催さむことを 繁枝は容易に紛紛として落つ 嫩蘂は商量して細細に開け これはなをあいするならずんばすなはちしせんとほっす ただおそるはなつきておいのあひもよほさむことを はんしはよう…

李白「臨路(臨終)の歌(りんろ(りんじゅう)のうた;臨路歌)」(全) (青木正兒)

大鵬飛んで八裔に振ひ 中天に摧けて力濟はず。 餘風は萬世に激し 扶桑に遊んで石袂を挂く。 後人 之を得て此を傳ふ 仲尼亡びたるかな誰か爲に涕を出さん。 たいほうとんではちえいにふるひ ちゅうてんにくだけてちからすくはず。 よふうはばんせいにげきし …

「撃鼓(げきこ)」(「『詩經』 國風 邶風」より)(抄) (高田眞治)

于嗟 闊なり 我を活かさず 于嗟 洵なり 我を信ばしめず ああ くゎつなり われをいかさず ああ じゅんなり われをのばしめず 于嗟闊兮 不我活兮 于嗟洵兮 不我信兮 ああ 遠く離れて 今ははや生きるすべもない ああ 遠く別れて 偕老の志を果たすこともできなく…

屈原「九歌 湘夫人(しゃうふじん)」(『楚辭』より)(抄) (藤野岩友)

時は驟は得可からず。 聊く逍遙して容與せん。 ときはしばしばはうべからず。 しばらくせうえうしてようよせん。 時不可兮驟得 聊逍遙兮容與 よい機会はそうたびたびは得られないから、しばらくあたりをさまよい、落ち着いて時を待とう。

屈原「九歌 湘君(きゅうか しゃうくん)」(『楚辭』より)(抄) (藤野岩友)

旹は再びは得可からず、 聊く逍遙して容與せん。 ときはふたたびはうべからず、 しばらくせうえうしてようよせん。 旹不可兮再得 聊逍遙兮容與 時はふたたび得られないから、しばらくあたりをさまよいゆるゆるとしていよう。

陶潛「雜詩」(抄) (星川清孝)

盛年重ねて來らず、一日再び晨なり難し。 時に及んで當に勉勵すべし。歳月は人を待たず。 せいねんかさねてきたらず、いちじつふたたびあしたなりがたし。 ときにおよんでまさにべんれいすべし。さいげつはひとをまたず。 盛年不重來 一日難再晨 及時當勉勵 …

白樂天「天可度(てんかたく)」(抄) (田中克己)

陰陽 神變 みな測るべく 人間の笑これ瞋なるは測られず。 いんやう しんぺん みなはかるべく にんげんのわらひこれいかりなるははかられず。 陰陽神變皆可測 不測人間笑是瞋 陰陽のことや神変ふしぎはみな推測できるが 人間の笑いがじつは怒りだということは…

杜甫「狂夫(きゃうふ)」(抄) (目加田誠)

溝壑に塡せむとして惟疎放なり 自ら笑ふ 狂夫 老いて更に狂なるを こうがくにてんせむとしてただそはうなり みづからわらふ きゃうふ おいてさらにきゃうなるを 欲塡溝壑惟疎放 自笑狂夫老更狂 こうしてみすみす野たれ死にが待っているというのに、相変わら…

李白「夜 洞庭に汎び裴侍御を尋ねて清酌す(よる どうていにうかびはいじぎょをたづねてせいしゃくす;夜汎洞庭尋裴侍御清酌)」(抄) (青木正兒)

曲盡きて酒も亦傾く 北牕に酔うて泥の如し。 人生且く行樂せん 何ぞ必ずしも組と珪と。 きょくつきてさけもまたかたむく ほくさうにゑうてどろのごとし。 じんせいしばらくかうらくせん なんぞかならずしもそとけいと。 曲盡酒亦傾 北牕酔如泥 人生且行樂 何…

陶潛「劉柴桑に和す(りうさいさうにわす;和劉柴桑)」(抄) (星川清孝)

棲棲たる世中の事、歳月に共に相疎んず。 せいせいたるせちゅうのこと、としつきにともにあひうとんず。 棲棲世中事 歳月共相疎 いそがしい世の中の事は、歳(とし)に月(つき)にわたくしとたがいに疎遠になってゆく。

韓愈「興を遣る(きょうをやる;遣興)」(全) (原田憲雄)

一生を斷送するに 惟だ酒のみ有り 百計を尋思するに 閑なるに如かず 憂ふる莫れ 世事と身事とを 須らく人間を著って夢間に比すべし いっせいをだんそうするに たださけのみあり ひゃくけいをじんしするに かんなるにしかず うれふるなかれ せいじとしんじと…

白樂天「井底引銀瓶(せいていいんぎんぺい)」(抄) (田中克己)

君が一日の恩のために 妾が百年の身を誤る。 言を寄す癡小人家の女に 「愼みて身をもって輕しく人に許すことなかれ」と。 きみがいちじつのおんのために せふがひゃくねんのみをあやまる。 げんをよすちせうじんかのぢょに 「つつしみてみをもってかろがろし…

杜甫「高式顔に贈る(かうしょくがんにおくる;贈高式顔)」(全) (目加田誠)

昔 別れしは是れ何れの處ぞ 相逢へば皆老夫なり 故人 また寂寞 迹を削られて共に艱虞 文を論ずる友を失ひてより 空しく知る 賣酒の壚 平生 飛動の意 爾を見ては無きこと能はず むかし わかれしはこれいづれのところぞ あひあへばみならうふなり こじん また…

李白「秋浦(しうほ)の歌 十七首 其の十五(秋浦歌十七首 其十五)」(全) (青木正兒)

白髮 三千丈 愁に縁って箇の似く長し。 知らず 明鏡の裏 何の處よりか秋霜を得たる。 はくはつ さんぜんぢゃう うれひによってかくのごとくながし。 しらず めいきゃうのうち いづれのところよりかしうさうをえたる。 白髮三千丈 縁愁似箇長 不知明鏡裏 何處…

王漁洋「江上にて青山を望み、舊を憶ふ。二首。(かうじゃうにてせいざんをのぞみ、きうをおもふ。にしゅ。;江上望青山憶舊二首)」(全) (橋本循)

(一)揚子、秋は殘す暮雨の時 笛聲雁影、共に迷離 重來す、三月青山の道 一片の風帆、萬柳の絲 やうし、あきはざんすぼうのとき てきせいがんえい、ともにめいり じゅうらいす、さんぐゎつせいざんのみち いっぺんのふうはん、ばんりうのいと 揚子秋殘暮雨…

陸游「自ら傷む(みづからいたむ;自傷)」(抄) (前野直彬)

世間の萬事 倶て茫茫たり せけんのばんじ すべてばうばうたり 世間萬事倶茫茫 世の中の万事が、すべて遠いものとなってしまった。

蘇東坡「別歳」(歳晩(さいばん)第二首)(「歳晩 三首」より)(抄) (近藤光男)

磋する勿れ 舊歳の別 行〃新歳と辭せん 去去 囘顧する勿れ 君に老と衰とを還さん さするなかれ きうさいのわかれ ゆくゆくしんさいとじせん きょきょ くゎいこするなかれ きみにらうとすゐとをかへさん 勿磋 舊歳別 行與 新歳辭 去去 勿囘顧 還君 老與衰 古…

韓愈「孟東野 子を失ふ 并に序(まう・とうや こをうしなふ ならびにじょ;孟東野失子 并序)」(抄) (原田憲雄)

子有りとも 且つ喜ぶ勿れ 子無きも 固より歎ずる勿れ 上聖は教を待たず 賢は語を聞きて遷る 下愚は語を聞いて惑ひ 教ふと雖も悛むるに由無し と こありとも かつよろこぶなかれ こなきも もとよりたんずるなかれ じゃうせいはをしへをまたず けんはごをきき…

白樂天「李夫人(りふじん)」(抄) (田中克己)

生にもまた惑ひ、死にもまた惑ふ 尤物 人を惑はして忘れ得ず。 人は木石にあらずみな情あり しかず傾城の色に遇はざらんには。 せいにもまたまどひ、しにもまたまどふ いうぶつ ひとをまどはしてわすれえず。 ひとはぼくせきにあらずみなじゃうあり しかずけ…

「緑衣(りょくい)」(「『詩經』 國風 邶風(はいふう)」より )(抄) (高田眞治)

絺や綌や 凄として其れ以て風ふく 我古人を思ふに 實に我が心を獲たり ちやげきや せいとしてそれもってかぜふく われこじんをおもふに じつにわがこころをえたり 絺兮綌兮 凄其以風 我思古人 實獲我心 薄いかたびら この寒い風に 我れは賢い古(いにし)え人(…

杜甫「春望(しゅんばう)」(全) (目加田誠)

國破れて山河在り 城春にして草木深し 時に感じては花にも涙を濺ぎ 別を恨んでは鳥にも心を驚かす 烽火 三月に連なり 家書 萬金に抵る 白頭 搔けば更に短く 渾べて簪に勝へざらんと欲す くにやぶれてさんがあり しろはるにしてさうもくふかし ときにかんじて…