2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

北畠親房『神皇正統記』

世の中のおとろふると申は、日月(ひつき)の光のかはるにもあらず、草木の色のあらたまるにもあらじ。人の心のあしくなり行(ゆく)を末世とはいへるにや。

清少納言『枕草子』

星は すばる。ひこぼし。ゆふづつ。よばひ星、すこしをかし。尾だになからましかば、まいて。

清少納言『枕草子』

ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くるしろがねの毛抜(けぬき)。主(しゅう)そしらぬ従者(ずさ)。

夏目漱石『行人』

君は山を呼び寄せる男だ。呼び寄せて来ないと怒る男だ。地団太を踏んでくやしがる男だ。そうして山を悪く批判する事だけを考える男だ。なぜ山のほうへ歩いてゆかない。

徳冨蘆花『自然と人生』

家は十坪に過ぎず、庭は唯三坪。誰(たれ)か云ふ、狭くして且(かつ)陋(ろう)なりと。家(いへ)陋なりと雖ども、膝を容る可(べ)く、庭狭きも碧空仰ぐ可く、歩(ほ)して永遠を思ふに足る。

夏目漱石『門』

彼は門を通る人ではなかった。また門を通らないで済む人でもなかった。要するに、彼は門の下に立ちすくんで、日の暮れるのを待つべき不幸な人であった。

小堀杏奴『晩年の父』

「なんでもない事が楽しいようでなくてはいけない」というのが父の気持だった。ところが子供の私にそんな事が解るはずはなかった。

夏目漱石『明暗』

今のお前は自由だ。自由はどこまで行っても幸福なものだ。そのかわりどこまで行っても片付かないものだ、だから物足りないものだ。

夏目漱石『道草』

世の中に片づくなんてものはほとんどありゃしない。一ぺん起こった事はいつまでも続くのさ。ただいろいろな形に変わるから他(ひと)にも自分にもわからなくなるだけの事さ。

水上滝太郎『貝殻追放』

いったい父親は、いくら勉強したからって、四這(よつんばい)になって股ぐらをくぐっても、熊になってひっつりかえっても、こどもをひきつける事にかけては母親の敵ではない。

斎部広成『古語拾遺』

竊(ひそか)に恐るらくは、後(のち)の今を見むこと、今の古(いにしへ)を見る猶(ごと)くならむ。

『山家鳥虫歌』

鮎は瀬につく鳥は木にとまる 人は情(なさけ)の下に住む

鈴木牧之『北越雪譜』

暖国の雪一尺以下ならば山川村里(さんせんそんり)立地(たちどころ)に銀世界をなし、雪の飄々翩々(へう/\へん/\)たるを観て花に論(たと)へ玉に比べ、勝望美景を愛し、酒食音律の楽(たのしみ)を添へ、画(ゑ)に写し詞(ことば)につらねて称翫(しょうくゎん)…

兼好法師『徒然草』

ひとり、燈(ともしび)のもとに文(ふみ)をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。

夏目漱石『坊っちゃん』

考えてみると世間の大部分の人はわるくなることを奨励しているように思う。わるくならなければ社会に成功はしないものと信じているらしい。たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。

紫式部『源氏物語』

さかさまに行かぬ年月よ。老いは、え逃れぬわざなり。

芥川龍之介『侏儒の言葉』

恋愛の徴候の一つは彼女は過去に何人の男を愛したか、あるいはどういう男を愛したかを考え、その架空の何人かに漠然とした嫉妬を感ずることである。

萩原朔太郎「郵便局」

郵便局といふものは、港や停車場やと同じく、人生の遠い旅情を思はすところの、悲しいのすたるぢやの存在である。 ※太字は出典では傍点

永井荷風『濹東綺譚』

正義の宮殿にも往々にして鳥や鼠の糞(ふん)が落ちていると同じく、悪徳の谷底には美しい人情の花と香(かんば)しい涙の果実がかえって沢山に摘み集められる。

正岡子規『筆まかせ』

世間恐るべきは猛獣毒蛇にあらず 壮士暴客にあらず ただ勉強家と沈黙家と謙遜家とのみ

正岡子規『仰臥漫録』

柩の前にて通夜すること無用に候 通夜するとも代りあひて可致(いたすべく)候 柩の前にて空涙(そらなみだ)は無用に候 談笑平生の如くあるべく候

夏目漱石『硝子戸の中』

女は「先生に送っていただくのは光栄でございます」とまた言った。私は「ほんとうに光栄と思いますか」とまじめに尋ねた。女は簡単に「思います」とはっきり答えた。私は「そんなら死なずに生きていらっしゃい」と言った。

『竹取物語』

この世の人は、おとこは女にあふことをす、女は男にあふ事をす。その後(のち)なむ門ひろくもなり侍る。

幸田文『みそっかす』

馬鹿丁寧な仕立かたをした不断著(ふだんぎ)の垢づいているのは愚であり、いい著物の俄仕立(にわかじたて)も内証(ないしょう)が見えすいて未熟だ。

夏目漱石『彼岸過迄』

あんなに冷酷に見えた父も、心の底には自分以上に熱い涙をたくわえていたのではなかろうかと考えると、父の記念(かたみ)として、彼の悪い上皮だけを覚えているのが、子としていかにも情けない心持ちがする。

井原西鶴『好色二代男』

人間は、欲に、手足の付(つい)たる、物そかし。

井原西鶴『好色一代女』

美女は、命を断つ斧。

紀貫之『土佐日記』

唐(もろこし)とこの国とは、言(こと)異なるものなれど、月の影は同じことなるべければ、人の心も同じことにやあらむ。

夏目漱石『吾輩は猫である』

主人は好んで病気をして喜んでいるけれど、死ぬのは大きらいである。死なない程度において病気という一種のぜいたくがしていたいのである。

正岡子規『筆まかせ』

文章は簡単ならざるべからず 最(もっとも)簡単なる文章が最面白き者なり。