2011-11-01から1ヶ月間の記事一覧

太宰治『パンドラの匣』

この「かるみ」は、断じて軽薄と違うのである。慾と命を捨てなければ、この心境はわからない。くるしく努力して汗を出し切った後に来る一陣のそよ風だ。世界の大混乱の末の窮迫の空気から生れ出た、翼のすきとおるほどの身軽な鳥だ。これがわからぬ人は、永…

太宰治『パンドラの匣』

「日本に於いて今さら昨日の軍閥官僚を攻撃したって、それはもう自由思想ではない。便乗思想である。」

太宰治『パンドラの匣』

それはもう大昔からきまっているのだ。人間には絶望という事はあり得ない。人間は、しばしば希望にあざむかれるが、しかし、また「絶望」という観念にも同様にあざむかれる事がある。正直に言う事にしよう。人間は不幸のどん底につき落され、ころげ廻りなが…

太宰治『正義と微笑』

思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦なところらしい。

太宰治『正義と微笑』

幸福の便りというものは、待っている時には、決して来ないものだ。決して来ない。友人を待っていて、ああ、あの足音は? なんて胸をおどらせている時には、決してその人の足音ではない。そうして、その人は、不意に来る。足音も何もあったものではない。全然…

太宰治「HUMAN LOST」

笑われて、笑われて、つよくなる。

太宰治「HUMAN LOST」

(壁に。)われより後に来るもの、わが死を、最大限に利用して下さい。

太宰治「二十世紀旗手」

「気まずさも、一時の気まずさも、生きて行くために、どうしても必要なことなのだから。」

太宰治「虚構の春」

会社員生活をしているから社会がみえたり、心境が広くなるわけではなく、却って月給日と上役の顔以外にはなんにもみえません。

太宰治「虚構の春」

小市民というものは、こちらが頭を低くすればするほど、それだけ、のしかかって来るものであった。そう気がついたとき、私は、ふたたび起きあがることが出来ぬほどに背骨を打ちくだかれていたようだ。

太宰治「狂言の神」

「人間のもっとも悲痛の表情は涙でもなければ白髪でもなし、まして、眉間の皺ではない。最も苦悩の大いなる場合、人は、だまって微笑んでいるものである。」

太宰治「竹青」

「人間は一生、人間の愛憎の中で苦しまなければならぬものです。のがれ出る事は出来ません。忍んで、努力を積むだけです。学問も結構ですが、やたらに脱俗を衒うのは卑怯です。もっと、むきになって、この俗世間を愛惜し、愁殺し、一生そこに没頭してみて下…

太宰治「竹青」

「あなたは、ご自分の故郷にだけ人生があると思い込んでいらっしゃるから、そんなに苦しくおなりになるのよ。人間到るところに青山があるとか書生さんたちがよく歌っているじゃありませんか。」

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

家が視界から消えるにつれて、私は奇妙な感じにとらわれた。自分が詩を書き、とてもよく書けたのにそれをなくして、二度とそれを思い出せないような感じだった。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

「私の引き下がり方はいつも同じなんだ」と、私はいった。「空しい微笑を見せ、軽く手首をふる。そしてこの世で二度とあんたに会うことがないようにと、心の底から祈る。おやすみ」

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

「マーロウはなんでも知っている――どうしたらまっとうに暮らせるかということ以外はね」

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

「初期のリリアン・ギッシュだね。ずっと初期のリリアン・ギッシュだ。へたな芝居はやめるんだ、ばかばかしい」 ※太字は出典では傍点

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

「私だって困難な立場に立たされてるんだ」と、私は大きな声を出した。「耳たぶまで困難な立場に漬ってるんだ。何だって君は泣いてるんだ」 ※太字は出典では傍点

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

夫人は笑い顔を見せた。美しい微笑ではなく、少々違う種類の笑い顔だった。だが、笑い顔にはちがいなかった。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

「いい声だわ。ラヴ・ソングが好きな人にはね」

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

二人の警官は完全に沈黙を続け、身動きをしなかった。あまりにも沈黙を守りすぎ、あまりにも身動きをしなさすぎた。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

「ビクトリア女王だな」と、私はいった。 「何の事だか、わからない」 「奇蹟を期待してはいない」と、私はいった。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

彼は頭を下げた。およそ一インチほど。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

この男は一分ごとに若くなる。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

彼はドアを閉めた。私がどこかを訪れるといつもそうであるように、時間が過ぎていった。

レイモンド・チャンドラー『高い窓』(清水俊二 訳)

顔の表情は何かが欠けていた。ひところは教養と呼ばれていたものだが、近ごろは何と呼ばれているのか、私は知らなかった。その顔は年齢から考えると賢すぎるし、警戒心が強すぎるように見えた。もの欲しげな視線をあまりにもしばしば浴びすぎて、その視線を…

レイモンド・チャンドラー『湖中の女』(清水俊二 訳)

開かれている窓のそばのテーブルに電気スタンドがおいてあった。厚いクッションをおいた緑色のソファがあった。ドアのかわりに緑色のカーテンがかかっている通路があった。背中を緑色のカーテンに向けて座ってはならない。かならず何か悪いことが起こる。何…

レイモンド・チャンドラー『湖中の女』(清水俊二 訳)

彼女は驚いたように見えた。しかし、誰だって驚いたように見えることがある。

レイモンド・チャンドラー『湖中の女』(清水俊二 訳)

「私は彼を愛していないけれど――考え方によっては愛してるんだわ」

レイモンド・チャンドラー『湖中の女』(清水俊二 訳)

「それとも、警官が嘘をいってるのかね――いつものように」