チェーホフ『ワーニャ伯父さん』(神西清 訳)

アーストロフ しかしね、僕のおかげで、伐採の憂目をまぬかれた、百姓たちの森のそばを通りかかったり、自分の手で植えつけた若木の林が、ざわざわ鳴るのを聞いたりすると、僕もようやく、風土というものが多少とも、おれの力で左右できるのだということに、思い当るのだ。そして、もし千年ののち人間が仕合せになれるものとすれば、僕の力も幾分はそこらに働いているわけなのだと、そんな気がしてくるのだ。