チェーホフ『かもめ』(神西清 訳)

アルカージナ (マーシャに)じゃ、立ってみましょう。(ふたり立ちあがる)こうして並んでね。あんたは二十二、わたしはかれこれその倍よ。ね、ドールンさん、どっちが若く見えて?
ドールン あなたです、もちろん。
アルカージナ そうらね……で、なぜでしょう? それはね、わたしが働くからよ、物事に感じるからよ、しょっちゅう気を使っているからよ。ところがあんたときたら、いつも一つ所にじっとして、てんで生きちゃいない。……それにわたしには、主義があるの――未来を覗き見しない、というね。わたしは、年のことも死のことも、ついぞ考えたことがないわ。どうせ、なるようにしかならないんだもの。
マーシャ わたしは、こんな気がしますの――まるで自分が、もうずっと昔から生れているみたいな。お儀式用のあの長ったらしいスカートよろしく、自分の生活をずるずる引きずってるみたいな気がね。……生きようなんて気持が、てんでなくなることだってよくありますわ。(腰をおろす)でも、くだらないわね、そんなこと。奮起一番、こんな妄念は叩きださなくちゃいけないわ。