谷川俊太郎「もし言葉が」

黙っていた方がいいのだ
もし言葉が
一つの小石の沈黙を
忘れている位なら
その沈黙の
友情と敵意とを
慣れた舌で
ごたまぜにする位なら


黙っていた方がいいのだ
一つの言葉の中に
戦いを見ぬ位なら
祭とそして
死を聞かぬ位なら


黙っていた方がいいのだ
もし言葉が
言葉を超えたものに
自らを捧げぬ位なら
常により深い静けさのために
歌おうとせぬ位なら