ニーチェ『歴史の功罪』

 最小の幸福においても最大の幸福においても、幸福を幸福たらしめているものは常に一つである。すなわちそれは忘れることができるということ、もっと学者風に言えば、幸福が持続しているあいだ物事を非歴史的に感覚することのできる能力である。すべての過去を忘れて瞬間の敷居に腰をおろすことができない者、勝利の女神のようにめまいも恐怖もなく一点に立ち止まることができない者は、幸福とは何かを決して知らないであろうし、さらに悪いことには、他人を幸福にするようなことを決してしないであろう。

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