マキアヴェッリ『政略論』

 人は、大局の判断を迫られた場合は誤りを犯しやすいが、個々のこととなると、意外と正確な判断をくだすものである。
 だから民衆も、巨視的な視野を要求される事柄の判断力では頼りにできないが、ミクロな事柄ならば、多くの場合正確な判断をくだせるのだ。
 それで、いかにすればこういう民衆に眼を開かせることができるか、の問題になってくるが、次にのべることを踏襲すれば簡単である。
 つまり、大局的な事柄の判断を民衆に求める場合、総論を展開するのではなく、個々の身近な事柄に分解して説得すればよい。
 このことからも、思慮深い指導者は、けっして次の配慮を忘れないはずである。
 それは、誰かに名誉や褒賞を与える場合なのだ。
 この場合、思慮ある指導者ならば、どのような人にどれくらいの報いを与えるかということの配慮なしには、実行しないはずである。
 なぜなら、このようなことにこそ、民衆は正当な判断力を発揮するからである。