レイモンド・カーヴァー「でぶ」(村上春樹 訳)

 面白い話ねえ、とリタは言う。でもそれをどうとらえたらいいのかよくわからなくて戸惑っていることがわかる。
 私は気持ちが落ち込んでくる。でもこれ以上彼女にこの話はしない方がいい。すでに私は喋りすぎているのだ。
 彼女はそのままじっとそこに座って待っている。華奢な指先を髪の中に入れて。
 いったい何を待っているのよ、教えて欲しいものだわ。
 今は八月だ。
 私の人生は変わろうとしている。私はそれを感じる。

   ※太字は出典では傍点