アーサー・C・クラーク『幼年期の終り』(福島正実 訳)

 生涯を賭けた仕事が一瞬のうちに潰え去っていくのを見ながらも、彼は悲しみは感じなかった。彼は人類を星々へ到達させるために汗を流した。そして、まさにその成功のまぎわに、星が――冷やかな、超然とした星が――逆に彼のほうへ降りてきたのだ。これこそ、歴史が息をひそめる一瞬であり、現在が過去から断ち切られる瞬間なのだった。あたかも、氷山がその凍りついた母なる大絶壁を離れて一人孤高を誇りつつ大海へ乗り出していくように……。過去の世代が達成したことは、いまやすべて無にひとしい。ラインホールドの頭の中には、ただ一つの思いだけがくりかえしくりかえしこだましていた。
 人類はもはや孤独ではないのだ。