アガサ・クリスティ『ABC殺人事件』(堀田善衛 訳)

会話において、何かをかくしているものほど、危険なものはないよ! あるフランスの老賢人が私にいったことがある。話というものは、考えることを妨げるための、発明だ、とね。そしてまた、人がかくそうと思っていることを発見するための、誤りのない方法でもあるわけだ。人間というものはだな、ヘイスティングズ、自分自身をあらわし、その個性を表現するために、会話が与えてくれる機会には、抗し得ないものだよ。

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