竹内好「近代主義と民族の問題」

しかし絶望に直面したときに、かえって心の平静が得られる。ただ勇気をもて。勇気をもって現実の底にくぐれ。一つだけの光をたよって、救われることを幻想してはならぬ。創造の根元の暗黒が隈なく照らし出されるまで、仕事を休んで安心してはならない。汚れを自分の手で洗わなければならぬ。特効薬はない。一歩一歩、手さぐりで歩きつづけるより仕方がない。中国の近代文学の建設者たちを見たって、絶望に打ちのめされながら、他力にたよらずに、手で土を掘るようにして一歩一歩進んでいるのである。かれらの達成した結果だけを借りてくる虫のいいたくらみは許されない。たといそれで道が開けなかったところで、そのときは民族とともに滅びるだけであって、ドレイ(あるいはドレイの支配者)となって生きながらえるよりは、はるかによいことである。