ヘミングウェイ「分水嶺の下で」(高見浩 訳)

「何かいい場面を撮れたかい?」
「いくつかね。戦車を撮ったよ」
「戦車か」苦々しげに言った。「あの豚どもめ。臆病者めらが。あんたは死なないように注意しろよ。作家なんだからな、本来」
「いまは書けないがね」
「あとで書けばいい。あとでみんな書けばいい。それと、死なないようにな。とりわけ、死なないことが肝心だ。じゃあ、引きとってもらおうか」