マンスフィールド「カナリヤ」(崎山正毅 訳)

 ……とはいうものの、病的になったり、思い出して悲しみにくれたりしないでも、人生には悲しいものがあるということを告白しなければなりません。それがなんであるかは申しあげることはむずかしいのです。私は、病気とか、貧乏とか、死とかいう誰でもが知っている悲しみをいっているのではありません。いや、それとはぜんぜんちがうものなのです。それは、人の呼吸のように、人についたもの、深い深いところにあるものなのです。私が一所懸命に働き、疲れ切って、仕事をやめると、それがすぐ待ちかまえているのがわかります。みなさんはそれと同じようにお感じになることがおありでしょうか。それはどうだかわかりません。それにしても、おかしなことに、あの子のかわいい、楽しい歌ごえのなかに、この……悲しさ……が聞こえたのです……もし悲しさでないとしたらそれはいったい何なのでしょう……