保坂和志「夏の終わりの林の中」

秋になって感傷的な気分になるわけは、そこに何か感傷的にさせるものがあるわけではなく、思い出が増えたからでもなく、たんに習い性とか条件反射のようなもので、秋になれば「秋なんだなあ」という思いの型が生まれ、冬になれば冬になったで「冬になったんだなあ」という思いの型が生まれているだけなんだと言った。思いの型というのは中身の思いがカラッポでもいっこうにかまわない。感傷を感じるのは中身ではなくて、むしろ型の方の働きによるんじゃないかと言った。

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