中井久夫『治療文化論』

そして、歴史に興味を持つ人すなわち過去に興味を持つ人は、木村敏のいうpost festum的な人、いわば(微分でなく)積分回路的な人、日本の精神医学で(ドイツ精神医学以外では承認を得ていないけれども)「執着性気質」といわれる、几帳面で、飛躍をみずからにゆるさず(結果的には「綿密」になる)、やや高きにすぎる自己への要求水準とそれにもとづく課題選択にしたがって範例枚挙的に無際限の努力をしながら(「仕事の重圧につねに押しつぶされていたい」(若き日のウェーバーのことば、マリアンネ夫人による))、つねに不全感からのがれられず、しかも、緊張と高揚感とを職場を去って自宅へ戻ってからも持続する、という人であることが臨床的には多い。