須賀敦子『ユルスナールの靴』

 もう少し老いて、いよいよ足が弱ったら、いったいどんな靴をはけばよいのだろう。私もこのごろはそんなことを考えるようになった。老人がはく靴の伝統は、まだこの国にはない。その年齢になってもまだ、靴をあつらえるだけの仕事ができるようだったら、私も、ユルスナールみたいに横でぱちんととめる、小学生みたいな、やわらかい革の靴をはきたい。