村上春樹「今は亡き王女のための」

甘やかされたり小遣い銭を与えられたりという程度のことは子供がスポイルされるための決定的な要因ではない。いちばん重要なことはまわりの大人たちの成熟し屈曲した様々な種類の感情の放射から子供を守る責任を誰がひきうけるかというところにある。誰もがその責任からしりごみしたり、子供に対してみんなが良い顔をしたがるとき、その子供は確実にスポイルされることになる。まるで夏の午後の砂浜で強い紫外線に裸身をさらすように、彼らのやわらかな生まれたばかりのエゴはとりかえしのつかないまでの損傷を受けることになる。それが結局はいちばんの問題なのだ。甘やかされたりふんだんに金を与えられたりというのは、あくまでそれに付随する副次的な要素にすぎない。