木山捷平「釣」

こんなふうに不健康でゐると
今年はしきりに春が待たれる。


ああ、何年ぶりでか
来春は小川へ釣りにでかけよう。


金儲けはできぬからだである
ましてえらいひとになることは――


せめて――春になると水がぬるんで
川魚たちがたのしくあそんでゐる。


ああそこへ、つれてもよいつれなくてもよい
一本の竿をおもむろにさしのばさう。