一遍『一遍上人語録』

「生きながら死して静かに来迎を待つべし」と、云々。万事にいろわず、一切を捨離(しゃり)して、孤独独一(どくいつ)なるを、死するとはいうなり。生(しょう)ぜしもひとりなり。死するも独りなり。されば人と共に住するも独りなり。そいはつべき人なき故なり。又わがなくして念仏申すが死するにてあるなり。わが計いをもて往生を疑うは、惣(そう)じてあたらぬ事なり。
〈解釈〉「生きながら死んで(生死の迷いを捨てて)、静かに来迎を待つがよい」という言葉があるが、この世の中のすべてのことに関係がなく、一切の物ごとを捨て去って、孤独独一なのを死ぬと言うのである。生まれたときもひとりである。死ぬときもひとりである。それだから他の人とともに住んでいるときもひとりである。死ぬまで自分とそいとげる人はいないからである。また自我をなくして念仏をとなえるのが死ぬということである。自分だけの勝手な考えをもって往生について疑いをもつことは、すべてあたらないことである。