森鷗外「なのりそ」

大島。まあ、あなたのやうな方がお出(いで)になるので、こちらの娘のやうなものが爲合(しあは)せします。實(じつ)はわたくしにしたところが、もう殆ど二十年前(ぜん)の事ではありますが、洋行もいたしたものですから、歐米の風俗習慣でも、善(い)いものは他山の石として、取つて用ゐることに異論はないのです。(少し聲を大きくして。)唯(ただ)大和魂丈(だけ)は無くして貰ひたくないので。