蔵原伸二郎「きつね」(全)

狐は知っている
この日当たりのいい枯野に
自分が一人しかいないのを
それ故に自分が野原の一部分であり
全体であるのを
風になることも 枯草になることも
そうしてひとすじの光にさえなることも
狐いろした枯野の中で
まるで あるかないかの
影のような存在であることも知っている
まるで風のように走ることも 光よりも早く
 走ることもしっている
それ故に じぶんの姿は誰れにも見えないの
 だと思っている
見えないものが 考えながら走っている
考えだけが走っている
いつのまにか枯野に昼の月が出ていた