大江健三郎『洪水はわが魂に及び』

「樹木ノ魂」ヨ、植物ニ属スル者ラニハ、マタ「鯨ノ魂」ヨ、海上ノ巨大ナ哺乳類ニハ、アノヨウニ性急デイジマシイ性欲ノ処理ハ、オロカシイバカリカ、ミニクク見エルカモ知レナイ。シカシ、アノ少年ト小娘ノ没頭ブリニハナニカ独自ナモノガアッテ、ソレハワレワレノ心ヲ励マスノジャナイダロウカ? 少年ノ真朱(まっか)ノ亀頭ニ発シ小娘ノ顎ヲシタタリオチテ喉ノ皮膚ヲ濡ラシテイタ精液ハ、牛ノ眼ニ湧ク涙ノヨウニ、見ル者ノ心ヲシミジミトナゴマセモシタジャナイカ! ドウカ、アノ少年ヲ破傷風ノ危険カラ救ッテ下サイ。ヤガテ発熱ガオワリ、カレラニマトモナ性交ガ可能トナッテ、コノイジマシイ応急ノ処理ガツグナワレウルヨウニ! アナタガタ、植物的ナル者ヨ、海上ノ穏ヤカナル者ヨ、アノ発熱シタ少年ノ下腹カラ、瀉血(しゃけつ)スルヨウニ精液ヲ汲ミトッテイル小娘ハ、地上ノ動物的ナルモノノ酷タラシサモソナエテイルトハイエ、精一杯ノ優シサモアラワシテイタデハナイカ……