ホッブズ『リヴァイアサン』(水田洋 訳)

これによってあきらかなのは、人びとが、かれらすべてを威圧しておく共通の権力なしに、生活しているときには、かれらは戦争とよばれる状態にあり、そういう戦争は、各人の各人に対する戦争である、ということである。すなわち、戦争は、たんに戦闘あるいは闘争行為にあるのではなく、戦闘によってあらそおうという意志が十分に知られている一連の時間にある。だから、戦争の本性においては、天候の本性においてとおなじく、時間の概念が考慮されるべきである。というのは、不良な天候の本性が、ひと降りかふた降りの雨にあるのではなく、おおくの日をいっしょにしたそれへの傾向にあるのと同様に、戦争の本性も、じっさいの闘争にあるのではなく、その反対にむかうなんの保証もないときの全体における、闘争へのあきらかな志向にあるのだからである。そのほかのすべての時は、平和である。

   ※斜体は出典では傍点