オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』(高見幸郎、金沢泰子 訳)

 私は呆然とした顔つきになっていたにちがいない。だが彼は、立派な答をした気になっていた。彼の顔には、微笑がうかんでいた。テストは終了したと思ったのだろう、帽子をさがしはじめていた。彼は手をのばし、彼の妻の頭をつかまえ、持ちあげてかぶろうとした。妻を帽子とまちがえていたのだ! 妻のほうでも、こんなことには慣れっこになっている、というふうだった。