吉原幸子「子守唄」(全)

もう
ねむりながらほほゑんだりすることは
できないかもしれない


生きることが 好きだったのに
たった三十年で
突然 あきてしまった


なぜ生んだ とひらきなほる
不満だらけのにんげんに
ゲンバク反対ができるものか
と思ってゐました


さて
じぶんの分だけあきてしまっても
ひとのいのち
ひとの倖せ を
いのることはできるかしら


これからの〈世界〉を やさしく好き
これからのわたしだけ 煩はしいのです


子よ
十年後のおまへたちの上 陽はうららかに
十年後のおまへに わたしが要らないといいのに――


泣くとすれば
よっぱらひに抱かれてほほゑみつづける幼な児のため
ほほゑみつづける幼な児を抱いたよっぱらひのため

   ※太字は出典では傍点