吉野弘「父」(全)

何故(なぜ) 生まれねばならなかったか。


子供が それを父に問うことをせず
ひとり耐えつづけている間
父は きびしく無視されるだろう。
そうして 父は
耐えねばならないだろう。


子供が 彼の生を引受けようと
決意するときも なお
父は やさしく避けられているだろう。
父は そうして
やさしさにも耐えねばならないだろう。