韓愈「張十八と同じく阮歩兵の一日復た一夕に效ふ(ちゃうじふはちとおなじくげんほへいのいちじつまたいっせきにならふ;與張十八同效阮歩兵一日復一夕)」(全) (原田憲雄)

一日 復た 一日
一朝 復た 一朝
秖だ如かざる有るを見て
超ゆる所有るを見ず
食は前日の味を作し
事は前日の調を作す
知らず 久しく死せずして
憫憫として尚ほ誰をか要つ
富貴は自らを縶拘し
貧賤も亦た煎焦す
俯仰して未だ所を得ず
一世 已に鑣を解く
譬へば籠中の鶴の
六翮 搖く所無きが如し
譬へば兔の蹄に得ひたるが如し
安んぞ用って東西に跳ばむ
還た古人の書を看
復た前人の瓢を擧ぐ
未だ究竟する所を知らず
且く新詩を作って謠はむのみ


いちじつ また いちじつ
いってう また いってう
ただしかざるあるをみて
こゆるところあるをみず
しょくはぜんじつのあぢをなし
ことはぜんじつのてうをなす
しらず ひさしくしせずして
びんびんとしてなほたれをかまつ
ふうきはみづからをちふこうし
ひんせんもまたせんせうす
ふぎゃうしていまだところをえず
いっせ すでにへうをとく
たとえばろうちゅうのつるの
りくかく うごくところなきがごとし
たとへばうさぎのていにあひたるがごとし
いづくんぞもってとうざいにとばむ
またこじんのしょをみ
またぜんじんのへうをあぐ
いまだきうきゃうするところをしらず
しばらくしんしをつくってうたはむのみ


一日復一日
一朝復一朝
秖見有不如
不見有所超
食作前日味
事作前日調
不知久不死
憫憫尚誰要
富貴自縶拘
貧賤亦煎焦
俯仰未得所
一世已解鑣
譬如籠中鶴
六翮無所搖
譬如兔得蹄
安用東西跳
還看古人書
復擧前人瓢
未知所究竟
且作新詩謠


日 また 日
朝 また 朝
思うにまかせぬことばかり
抜け出たところは何もなし
食べものはきのうの味
することはきのうの調子
いつまでもくたばらず
もじもじとまだ誰(たれ)をまつ
金や名誉は身をしばり
貧すりゃ尻に火の車
どちらをむいてもおちつかず
さりとて今さらやめられず
たとえば籠(かご)の中の鶴
羽はあれども飛び出せず
たとえばワナにおち兎(うさぎ)
じたばた跳ねてもせんかたなし
むかしのひとの本よんで
むかしのひとの徳利とる
どうなることかしらないが
ままよ 歌でも うたおうかい