薛濤「友人を送る(いうじんをおくる;送友人)」(全) (辛島驍)

水國の蒹葭 夜 霜あり、
月寒 山色 共に蒼蒼。
誰か言ふ 千里 今夕よりすと。
離夢は杳として 關塞の如く長からん。


すゐこくのけんか よる しもあり、
げっかん さんしょく ともにさうさう。
たれかいふ せんり こんせきよりすと。
りむはえうとして くゎんさいのごとくながからん。


水國蒹葭夜有霜
寒山色共蒼蒼
誰言千里自今夕
離夢杳如關塞長


 今、夜もふけて、船出されるあなたをお送りしていると、水郷のまこもの葉にはまっ白く霜が置き、月はさむざむと、その下につらなっている山々の色とともに、青く冷えきって、さびしい限りの光景です。「今晩から、千里のお別れですね」などとありきたりのことばを使っている人があるようですが、このわたくしにとっては、千里などの遠さではありません。あの萬里の長城のように、その十倍も百倍もの遥かの遠いところへ、あなたがいらっしゃるようで、これからは毎晩毎晩、あなたのことを夢にみて、遥かに思いつづけるでしょう。