李白「金陵の江上にて蓬池隱者に偶ふ(きんりょうのかうじゃうにてほうちいんじゃにあふ;金陵江上偶蓬池隱者)」(抄) (青木正兒)

酒來り笑うて復た歌ふ
興酣にして樂事多し。
水影 月色を弄び
清光 愁を奈何せん。
明晨 帆席を掛けなば
離恨 滄波に滿ちん。


さけきたりわらうてまたうたふ
きょうたけなはにしてらくじおほし。
すゐえい げっしょくをもてあそび
せいくゎう うれひをいかんせん。
みゃうしん はんせきをかけなば
りこん さうはにみちん。


酒來笑復歌
興酣樂事多
水影弄月色
清光奈愁何
明晨掛帆席
離恨滿滄波


酒が來たので笑うたり歌うたり、興たけなはにして樂しみは多い。水に映る月影はきらめき、其の清光を見てゐると、どうにもならぬほど悲しくなる。明朝帆を掛けて船を出したら、離別の恨は波路(なみじ)に滿つるであらう。