屈原「九章 惜誦(せきしょう)」(『楚辭』より)(抄) (藤野岩友)

退いて靜默すれば余を知る莫く、
進んで號呼するも又余に聞く莫し。
申ねて侘傺して煩惑し、
中悶瞀して忳忳たり。


しりぞいてせいもくすればわれをしるなく、
すすんでがうこするもまたわれにきくなし。
かさねてたていしてはんわくし、
うちもんばうしてとんとんたり。


退靜默而莫余知兮
進號呼又莫余聞
申侘傺之煩惑兮
中悶瞀之忳忳


退いて沈黙していれば自分を知ってくれる者はないし、といって進んで大声で呼んでみたところで、自分の言うことに耳を借す者はいない。がっかりして、いくたびか嘆きつつ立ちどまっては、わずらいまどい、胸中はもだえ乱れて、憂い苦しむ。