呉偉業「悲歌 呉季子に贈る(ひか ごきしにおくる;悲歌 贈呉季子)」(抄) (近藤光男)

人生 千里と萬里と
黯然として魂銷ゆるは 別のみ
君獨り 何爲れぞ 此に至る
山は山に非ず 水は水に非ず
生は生に非ず 死は死に非ず
(中略)
患を受くるは 祇に讀書從り始る


じんせい せんりとばんりと
あんぜんとしてたましひきゆるは わかれのみ
きみひとり なんすれぞ ここにいたる
やまはやまにあらず みづはみづにあらず
せいはせいにあらず しはしにあらず
(中略)
くゎんをうくるは まさにとくしょよりはじまる


人生千里與萬里
黯然銷魂別而已
君獨何爲至於此
山非山兮水非水
生非生兮死非死
(中略)
受患祇從讀書始


顔色を失い魂も身にそわぬまでのかなしみにおちるのは、人の一生において千万里をへだてることとなる別れのときなのである。こともあろうに君が、どういうわけで、こういうことになったのだろう。〔塞外に旅立つ君のこころには〕山も川も、生も死も問題にしてはおれないであろう。
(中略)
人間、読書をはじめたら、それが患難を受けるはじまりである。