2009-01-02から1日間の記事一覧

森鷗外「靜(しづか)」

怪しき漁師。(忽ち荘重なる語氣にて。)殺せ。右の手の邪魔になると云つて、左の手を切る。切つた左の手の力を右の手に添へようとする。右の手を大事にするが好(い)い。右の手の指を大事にするが好い。己(おれ)は左の手を惜みはせん。左の手の指を惜みはせん…

夏目漱石『満韓ところどころ』

余は此処で橋本と一所に予備門へ這入(はい)る準備をした。橋本は余よりも英語や数学に於て先輩であつた。入学試験のとき代数が六づかしくつて途方に暮れたから、そつと隣席の橋本から教へて貰つて、其御蔭(おかげ)でやつと入学した。所が教へた方の橋本は見…