夏目漱石『満韓ところどころ』

余は此処で橋本と一所に予備門へ這入(はい)る準備をした。橋本は余よりも英語や数学に於て先輩であつた。入学試験のとき代数が六づかしくつて途方に暮れたから、そつと隣席の橋本から教へて貰つて、其御蔭(おかげ)でやつと入学した。所が教へた方の橋本は見事に落第した。入学をした余もすぐ盲腸炎に罹(かゝ)つた。是は毎晩寺の門前へ売(うり)に来る汁粉(しるこ)を、規則の如く毎晩食つたからである。