2009-02-11から1日間の記事一覧

津村信夫「孤児」(全)

声が非常に美しい娘であつたから、死床の父 がささやいた。 ――御本(ごほん)を読んでおくれ、お前の声のきこえ るうちは私も生きてゐたい。 娘が看護(みとり)の椅子に腰かけて頁をきり初める と、父は、いつのまにか寝入つてゐた。 孤(ひと)りになつてからも…

高田敏子「橋」(全)

少女よ 橋のむこうに 何があるのでしょうね 私も いくつかの橋を 渡ってきました いつも 心をときめかし 急いで かけて渡りました あなたがいま渡るのは あかるい青春の橋 そして あなたも 急いで渡るのでしょうか むこう岸から聞える あの呼び声にひかれて