2011-03-10から1日間の記事一覧

笙野頼子「イセ市、ハルチ」

束縛と怯えだけで私はこの土地と繋がっていた。私はこの土地に根付く事がなかった。父と母が漸くここを自分たちの土地と感じ始めた時、私はこの家から浮き上がっていた。

笙野頼子「イセ市、ハルチ」

いや、結局どちらにでもモノガタリが出来る方へと転んでしまう町だ。

笙野頼子「なにもしてない」

急に沿道の警備が気になり始めた。新幹線に乗っていた時はなんでもなかった事が近鉄に移るやいなや強く意識された。自分がこの国の無力な小市民で、取り締まりの対象になっているのだと思い出した。

笙野頼子「なにもしてない」

……なんで吟味もせず私小説などという言葉を使うんだろう。なんでひらがなとカタカナの区別が付かないんだろう。現実の土地と、日本語で作った言葉の土地の区別をなぜしないのだろう……。

笙野頼子「なにもしてない」

ナニモシテナイ幸福な私がなぜだか自分では気に入らないのだった。十年間ずっと私自身はナニカヲシテキタつもりでいたのだった。だがしてきたはずの何かは自分の部屋の外に出た途端にナニモシテナイに摩り替わってしまった。シテキタシテキタ、と言ってくれ…