2011-04-30から1日間の記事一覧

川端康成『女であること』

「たいていの人は、子供を持ってからの年月の方が長いのに、あたしたちは子供が生まれても、父や母になってからの人生の方が、短いんですわね。」と、市子に言われて、佐山は女の取越し苦労だと思ったが、四十過ぎであれば、たしかにそうかもしれなかった。

川端康成『女であること』

「なるほど、中年の調和には、子供が必要かもしれないね。」

川端康成『女であること』

とっさのことだ。佐山の強い平手打ちが飛んだのだが、痛いというより、電気にでもふれたようなおどろきだった。 顔をかくして、さかえは泣き出した。 「ごめん。」 うろたえてあやまる、佐山の声がただごとではなかった。 「ぶって、小父さま、もっとぶって……

川端康成『女であること』

「若さへの郷愁、老人が若さに感じる哀愁……。」 佐山はわざと大げさに、自分を「老人」と思ってみたが、じつは老けてゆくのがおそろしいのだった。

川端康成『女であること』

「ここへ来てみると、わたし、長い年月、どこへもいかないでいたような気がするわ。いったい、なにをしてましたんやろ。生きるということは、ただ年を取ることだけね。」

川端康成『女であること』

「このごろの女の子は、歩き方から、あぶなっかしく見えるね。まるで投げやりのような、すきだらけのような。」 「そんなの、ハイ・ヒイルをはいたら、直ることですわ。」