2011-11-23から1日間の記事一覧

太宰治『お伽草子』

ぽかん、ぽかん、と無慈悲の櫂が頭上に降る。狸は夕陽にきらきら輝く湖面に浮きつ沈みつ、 「あいたたた、あいたたた、ひどいじゃないか。おれは、お前にどんな悪い事をしたのだ。惚れたが悪いか。」と言って、ぐっと沈んでそれっきり。 兎は顔を拭いて、 「…

太宰治『お伽草子』

あそこの家へ行くのは、どうも大儀だ、窮屈だ、と思いながら渋々出かけて行く時には、案外その家で君たちの来訪をしんから喜んでいるものである。それに反して、ああ、あの家はなんて気持のよい家だろう、ほとんどわが家同然だ、いや、わが家以上に居心地が…

太宰治『お伽草子』

カチカチ山の物語に於ける兎は少女、そうしてあの惨めな敗北を喫する狸は、その兎の少女を恋している醜男(ぶおとこ)。これはもう疑いを容れぬ儼然(げんぜん)たる事実のように私には思われる。

太宰治『お伽草子』

年月は、人間の救いである。 忘却は、人間の救いである。

太宰治『お伽草子』

「言葉というものは、生きている事の不安から、芽ばえて来たものじゃないですかね。腐った土から赤い毒きのこが生えて出るように、生命の不安が言葉を発酵させているのじゃないのですか。よろこびの言葉もあるにはありますが、それにさえなお、いやらしい工…

太宰治『お伽草子』

「どうも、陸上の生活は騒がしい。お互い批評が多すぎるよ。陸上生活の会話の全部が、人の悪口か、でなければ自分の広告だ。うんざりするよ。」

太宰治『お伽草子』

「あなたたちは、人生の切実の姿を見せつけられるのを、とても、いやがるからね。それこそ御自身の高級な宿命に、糞尿を浴びせられたような気がするらしい。あなたたちの深切は、遊びだ。享楽だ。」

太宰治『お伽草子』

「人は、なぜお互い批評し合わなければ、生きて行けないのだろう。」

太宰治『お伽草子』

性格の悲喜劇というものです。人間生活の底には、いつも、この問題が流れています。

太宰治『お伽草子』

このように、所謂「傑作意識」にこりかたまった人の行う芸事は、とかくまずく出来上るものである。