2011-11-25から1日間の記事一覧
家が視界から消えるにつれて、私は奇妙な感じにとらわれた。自分が詩を書き、とてもよく書けたのにそれをなくして、二度とそれを思い出せないような感じだった。
「私の引き下がり方はいつも同じなんだ」と、私はいった。「空しい微笑を見せ、軽く手首をふる。そしてこの世で二度とあんたに会うことがないようにと、心の底から祈る。おやすみ」
「マーロウはなんでも知っている――どうしたらまっとうに暮らせるかということ以外はね」
「初期のリリアン・ギッシュだね。ずっと初期のリリアン・ギッシュだ。へたな芝居はやめるんだ、ばかばかしい」 ※太字は出典では傍点
「私だって困難な立場に立たされてるんだ」と、私は大きな声を出した。「耳たぶまで困難な立場に漬ってるんだ。何だって君は泣いてるんだ」 ※太字は出典では傍点
夫人は笑い顔を見せた。美しい微笑ではなく、少々違う種類の笑い顔だった。だが、笑い顔にはちがいなかった。
「いい声だわ。ラヴ・ソングが好きな人にはね」
二人の警官は完全に沈黙を続け、身動きをしなかった。あまりにも沈黙を守りすぎ、あまりにも身動きをしなさすぎた。
「ビクトリア女王だな」と、私はいった。 「何の事だか、わからない」 「奇蹟を期待してはいない」と、私はいった。
彼は頭を下げた。およそ一インチほど。
この男は一分ごとに若くなる。
彼はドアを閉めた。私がどこかを訪れるといつもそうであるように、時間が過ぎていった。
顔の表情は何かが欠けていた。ひところは教養と呼ばれていたものだが、近ごろは何と呼ばれているのか、私は知らなかった。その顔は年齢から考えると賢すぎるし、警戒心が強すぎるように見えた。もの欲しげな視線をあまりにもしばしば浴びすぎて、その視線を…